総村スコアブック

総村悠司(Sohmura Hisashi)の楽曲紹介、小説掲載をしています。

小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(5/5)

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明日の答えなら 今日のどこかにしかない。

 *****

 

第五章 『金曜日』

 

 

 翌日の放課後。仮入部の最終日。僕は賑わう音楽室でなく、寂れた将棋部の教室の椅子に一人ぽつんと腰掛けていた。
 (これで……いいんだよな)
 丸一日考えて出した結論だったが、まだ僅かな心残りがあることは否定できない。
 軽音楽部は確かに楽しそうだった。しかし、もやもやした気持ちでいる僕がその集団の中で悪影響を与えないだろうか、上達せずにメンバーの足をひっぱってしまうのは心苦しい。
 将棋は元々孤独な競技だ。ゴルフやボクシングと違い、試合中に誰の助言も受けることはできない。運の要素もなく、〈負け=自分の判断ミス〉という厳しい現実を突きつけられる。
 しかし。
 孤独な競技ゆえに、自分のことは自分の責任で収められる。他人に迷惑を掛けることはない。迷った僕が何かやっとけそうなことはといえば、駒を持つことだと考えた。
 ただ、最後に決め手となったのは美月の言葉だった。
 
 ――――ケーヤの中で将棋はなくなってなかった
 
 美月は平気で嘘をつくタイプではない。いくら〈通し〉の最中とはいえ、その言葉が偽りの文字列であったとは思えなかった。
 将棋部は恐らく、将棋のできない顧問――泉西先生と僕の二人だけになる。あの訳の分からない教師と3年間一緒か……。今から卒業写真の部活のページが非常に心配だ。同窓会の度にネタにされたりしないだろうかと気が気ではない。
 一人だけだが、高校の大会も個人戦だけなら参加もできるはずだ。最近ではPC用ソフトも強くなってきているから、日々の対戦相手には不自由しない。学校に余っているPCが無いか泉西先生に相談してみるか。あれだけのことを言ってたのだから、少しは協力を要請しても問題は無いはずだ。
 よし……。当面の目標は立った。高校生でナンバーワンを目指すかな。
 僕が早くも来週からの活動を企てていると、
 「あれ。今日もいる」
 後ろから急に声を掛けられてビックリする。それは、ヤツの声ではなかった。
 「み、美月?」
 「何、驚いてんの?」
 美月は眉根を寄せて訝んでいる。
 「仮入部、最終日だぞ……。まさか、美月も将棋部入るつもりか?」
 「つもり……って、もう入部届は出し終えたけど?」
 美月が、将棋部に、本入部?
 俄かにはとても信じられない。昨日、僕を江辻の前に連れて行ったことで、美月が将棋部に近づく理由はもうないと思っていたのだから。
 同じ高校に通っているはずなのに、なんとなく、もう二度と会えないような気がしていたのに。
 僕の言いたいことが伝わったのか、美月は自分から話し始める。
 「顧問のセンセが『好きな時にくればいいから』って言ってくれたから。あたし、放課後はなるべく自由に過ごしたいし。先輩が居ないのも気楽でいいしね」
 なるほど。一応、納得できる回答ではあったが。「ケーヤがいるから」という理由じゃなかったのは残念至極だ。さすがにそれは夢見すぎだったか。
 「ところで、軽音部の本入部届はもう出してきたの?」
 現実の厳しさを突きつけられたばかりの僕に、美月はそんなことを言ってきた。意味がよくわからない。
 「俺も将棋部に本入部したから、さっきわざわざ美月『も』って言ったんだけどね」
 しかし、美月はさらに続けた。
 「あ、そう。『掛け持ち』はしないんだ」
 「えっ?」
 鳩がまさかの豆型スタンガンを食らったような表情を僕は浮かべていたかもしれない。
 「知らなかったの? 部活は掛け持ち可能だよ。生徒手帳に書いてあるでしょ。とりあえず、ケーヤもすればいいのに」
 「ケーヤも……って美月は将棋部とどこなんだよ」
 「帰宅部
 「あのさ。そういうのを幽霊部員っていうんだ」
 ……さてと。
 ここにきて、部活動の掛け持ち自体は可能だと知ったのは大きいが、果たして有効に実現可能なことなのだろうか。
 つまり、将棋で高校生全国一を目指しつつ、音楽も精力的に活動するってことだ。
 ギターだって、まだCとGとAmのコードしか押さえられない僕が、将棋の片手間にできるほど楽な世界ではないはずだ。
 将棋だって、3年のブランクがある。小中ではまだ覚醒していなかった、あるいは、急成長を遂げた猛者がきっとひしめいているに違いない。一筋縄ではいかないだろう。音楽の片手間では通用しないのではないだろうか。
 昔から、〈二兎追うものは一兎も得ず〉というじゃないか。そんな、異次元のような活動ができるわけが……。
 
 ――桂だけは……次元を超えられる……――
 
 頭に、そんなフレーズがフラッシュバックした。
 それは。
 (なんだよ……自分で言ったセリフじゃないか!)
 僕は、高速で自分自身の高校生活をできるだけ深く、そしてリアルに読んでいく。それは、随分と深くまで及んだ。
 人間には死の直前に人生の走馬灯というものがあるというが、それを未来に対してしている感覚に近かった。第三者的に見たら、非常に危ない人間かもしれない。
 そして結果が出る。
 「……よしっ」
 急いで読んだから、読み間違いかもしれない。でも、ここで立ち止まっていては、また時間切れのブザーが鳴り響き、後悔の3年間を送ってしまうことになるかもしれない。
 (迷ったら、何かやっとけ、だよな!!)
 僕は美月の方を正面に見据えて、「……悪い。しばらくここ頼む。軽音行ってくるから! ……と、もう一つ」
 そして、今、取り急ぎ言っておきたいことが。
 
 ビシィッッッッ……!!
 
 僕は、手許にあった玉将を力強く叩きつけ、真剣な顔で宣言する。
 「俺、王将も好きだけど、玉将はもっと好きだ!」
 突然、脈絡の無く謎の宣言をした僕に、さすがの美月も理解が追いついていない様子だ。
 いや、分からなくていい。むしろ、その方が堂々と言えて都合がいいといえるかもしれない。
 相手が意味を理解していないから恥ずかしさがなく、しかし、自分は達成感を得られている。
 今日のところは、これで十分。3年間のうちに、正式な機会が作ればいいさ。そんな風に、余裕に構えていたら。
 「おー、下僕……もとい、部員たちよ、集まっとるな」
 ヤツだ。
 (……って、このタイミングではヤバい!)
 慌てて、退散しようと思ったが、間に合わず。そして、
 「どうした瀬田。『玉将の点が美月の笑窪を表現したことをばらされたらまずい!』ってな表情してるが?」
 「……~~っ」
 恥ずかしさで、全身、特に顔が熱くなっていくのを感じた。後ろからは、何故か風を切る鋭い音が聞こえる。ゆっくり振り返ると。
 (その音かよ!)
 「……そんなに、あたしの笑窪が拝みたいなら、デコピン二発でどう?」
 美月が、眉根を僅かに寄せつつ、物凄い素振りをしていた。
 しかし、先日のように不快な表情を浮かべるでもなく、軽妙に切り返しを見せたということは、美月に僕が伝えたかった笑顔の魅力がいくらかは伝わったと言うことではないだろうか。
 それなら、恥ずかしい想いをしても損はない。あの強烈なデコピンは御免こうむるが。
 「と、とにかく。軽音楽部に届出してくる!」
 僕は、逃げるように将棋部の部室を飛び出した。
 後方の教室からは、何故か、泉西先生の「っ痛えっっっっ!!」という悲鳴が響いてきた。
 早速、さっきの〈読み〉が大きく脱線した僕の高校生活だが、どうやら、つまらないまま終わることだけはなさそうだ。
 
 無事、軽音楽部にも本入部届を出し終えて、来週の火曜日には早速ギター講座にも参加することにした。
 紆余曲折あったが、とにもかくにも僕の高校生活の駒はこれで全て整い、今まさに3年間に亘る一局がはじまろうとしている。
 すぐにでも第一手目を指したい、はやる気持ちを抑えて、静かに考える。
 瀬田桂夜の生き方のルールは、瀬田桂夜が決めることができるのだから。既存の考え方や、枠にとらわれることなんて無いはずだ。
 季節は春。春はspringであり、springは〈跳躍〉でもある。まさに〈桂〉のためにある季節といえるかもしれない。
 だから、もっと素直に。もっと自由に。こんなことだって、できるはずだ。
 僕は頭の中に将棋盤を浮かべると、勢い良く駒を打ち付ける。
 
 初手、5五桂――。
 

図_初手5五桂

図_初手5五桂


 小説『Sum a Summer =総計の夏=』に続く

 

小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(4/5)

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 負ければ悔しくて、もう一局。
 勝てればうれしくて、もう一局。
 それがこのゲームの怖くて素晴らしいところ。

 *****

 

第四章 『木曜日』

 

 翌朝のホームルーム前、福路くんが1組を尋ねてきた。
 「昨日は本当に助かったよ。あの後、『字間違えててごめん……』って謝ったら、ちゃんと許してもらえて」
 額を指差して、「穏便にね」と付け加える。
 左様ですか。そいつは、めでたいことで……。
 「あ、そうだ。もし知っていたらでいいんだけど……」
 確か、福路くんは僕と別の中学出身だ。そこで、念のため聞いてみたいことがあった。
 「『織賀美月』って女子生徒、知ってる?」
 「え? あの可愛い一年女子ですよね。運動神経も頭も抜群、才色兼備の天才ってところですけど、あんまりに無表情だから何考えているか分からず絡みづらいという評判ですが。それがどうかしました?」
 「ああ、いや、なんでもないよ」
 「入学早々、告白仕掛けて玉砕して、人目をはばからず涙を流した男子生徒が数名いるとかいないとか。残念ながら、〈ラフテイカー(笑顔受取人)〉が来てくれる年齢でもないのですしね」
 「ラフ……テイカー? 南の方の食べ物……だったっけ?」
 「それは、ラフテーです! 噂はご存じないですか。
  孤独に泣いている子供のすぐ傍にすうっと現われて、笑顔にさせてしまうすごいヤツなんですが、その正体というのが……」
 そのとき、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響き、僕と福路くんは慌ててそれぞれの教室へ戻ることとなった。
 話も脱線指定しまい、結局のところ持ち得ている情報以上の収穫は得られなかったのだった。

 *****

 朝の福路くんとの会話以来、僕は授業中を含めて一日中考え続けていた。
 美月が、なぜ将棋部に足を運び続けているのかということをだ。
 ここ数日、レクチャーを通してみた感想は『天才』だった。福路くんも評していたがそれに異論はない。
 一見、整った容姿の方に注目してしまいそうだが、異質なのはその処理能力だったのだ。
 一度理解したことをすぐに自分のものとして、正確無比に扱う。まるで、プログラムやコンピュータのようだ。
 そこで浮かぶのは、棋界を騒がせている冷谷山三冠のことだった。
 25歳でプロとなって以来、現在進行形で将棋界の記録を更新し続けている30歳の男だ。
 同業のプロ棋士からも「なぜプロ棋士になったのか」「他の分野であればもっと別の偉業を成していたのでは」と言わしめる天才だ。
 「天才は異質なものだ」冷谷山本人は何かのインタビューでそう言っていたそうだ。
 異質――つまり、凡人には天才は理解できない、ということならばそれ以上の探求は不可能ということになる。
 (結局は、考えるだけ無駄なのかな)
 僕はシャープペンシルを指先でクルクルと回しながら、5時間目の授業の終業時刻の到来を待ち望んでいた。

 そしていよいよ放課後。緊張しつつ部屋で待つと、美月は現れてくれた。そして、こちらが声を上げるより早く、
 「今日は、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだ」
 と切り出してきた。口調は昨日の『笑窪事件』以前のものと変わりがない。しこりが残らなかったことにひとまず安堵しつつ、「付き合ってほしい」という言葉につい敏感に反応してしまう。さすがに、デートの誘い……というわけでもなさそうだが。
 「別にいいけど?」
 そっけない感じを装っているが、心臓は高鳴ってきている。
 「それなら、片付け片付け」
 美月に促され、将棋盤と駒を片付けて、校舎を後にした。
 向かった先は、駅の近くの繁華街だ。この辺りは、飲食店や本屋など様々な商店が立ち並んでいる。
 美月はそのうち、〈哲笠ビル〉と銘打たれている建物の前で立ちどまる。1階が喫茶店になっているようだ。
 (喫茶店で何か食べたいものがあるとか?)
 男と二人じゃないと食べられないものとは、果たしてなんだろうか。牛丼とか、串揚げみたいなゴツい食べ物ならありえるかもしれないが、喫茶店のメニューにそういう類のものなんかあるだろうか。
 二人分の量の甘味を食べたいが、一人で注文すると人目が気になるから、僕に一旦注文させようとでも言うことだったりして。
 しかし、僕の予想をあざ笑うように、美月は1階の喫茶店には入らず、近くにあったエレベータで5階のボタンを押して待っている。
 5階のプレートには〈(株)レンタルルームサービス〉なる文字が書いてある。なんとも分かり易い会社である。
 貸し部屋でいったい何をするつもりか、という問いの答えは一切見当がついていない。
 エレベータを降り、居室の中をなおも進むと〈Cルーム〉と書かれたドアが見えてくる。その前で美月は立ち止まり、「ここ」と指さして待っている。
 ドアに何か張り紙があるわけでもなく、鉄の扉の先は見えない状況だ。全く想像がつかない。
 しかし、ここで突っ立っているわけにもいかない。
 僕は意を決して、ドアを開いた。

 *****

 ドアを開くと、椅子に白髪の人物が座っているのが見えた。入口に立っている僕に声が掛けられる。
 「ようこそ。どうぞ、こちらに……」
 前髪を垂らし、サングラスを掛けているが、肌の具合やその声から同い年くらいであることが分かった。
 白髪に見えたが、髪はブリーチしているのだろうか。白髪と銀髪の違いは僕にはよくわからない。
 一歩一歩近づく。
 すると、口許の印象や、彼の手前に置かれているものがよく見えてきたことで僕の推理は100%に到達する。
 「お前……江辻か?」
 「ごぶさたしていますね。瀬田くん」
 満足気な声で江辻が応じる。後ろを振り返ると、美月が相変らず無表情な顔で立っている。
 「謀ったのか?」などと失礼なことは聞かない。僕が自分の意思で付いて来たことに違いはないのだから。
 ただ、これだけは確認しておきたかった。
 「美月、君に何のメリットがあったんだ?」
 江辻と美月の間にどんな関係があるのか。恋人同士だというならば、瀬田桂夜としては残念だけど、まあ妥当な理由と言える。
 ただ、脅迫されているような事実があったなら、それは見過ごすことはできない。
 「今は、言えない」
 数日の付き合いではあったが、美月のことは少しは分かってきているつもりだ。
 『言えない』のではなく『今は言えない』理由なら、まだ今の自分を納得させられる。
 数日間を含めて要するに、江辻は美月を通して、僕を呼び寄せた。そういうことだ。
 美月が僕に近づいたのも、僕と親しくなり、事を進めやすくするためだった、ということだろう。
 「事情はだいたい分かった」
 僕は、江辻の前に置かれている将棋盤を指差して言う。「要するに、きみとそれをすればいいんだろ?」
 人質がいるわけでもない、褒賞金が出るわけでもない、僕にはメリットがない話だ。それは理解している。
 しかし、ここで去れば江辻は確実に不完全燃焼だろう。江辻がそうなれば、美月も恐らくは十分な報酬を得ることはできないだろう。
 そして、そんな状況を生んだ張本人という後味の悪さが、僕には残る。
 だから。
 早く江辻を満足させて、こんな不快な状況から脱するに限る。
 部屋の奥に進み、将棋盤が近づくにつれ、駒の並びは初形ではなく差しかけのものだと分かった。
 そして気付く。
 「これは……っ」
 何度も夢で見た。うなされたこともある。最近は、やっと見なくなったというのに。
 見覚えがある局面。いや、むしろ忘れようがない局面。

 *****

 小学生の時、僕は将棋少年だった。将棋の駒などはいつもポケットに入れて持ち歩いており、近所では「ビスケットと駒を間違えているのでは?」という噂が立ったとか立たなかったとか。
 ルールは父から教わった。勝敗によって、おやつの量が増減するという仕組みが僕の心を熱くした。半年で父と同レベルまで成長し、一年後には父では相手にならなくなって、隣町の道場にも通うようになった。
 世の中は広い。通いはじめの頃は、負けることの方がずっと多かった。
 それでも、子供特有の才能が伸びる時期に合致したのか、将棋というゲームとの相性が良かったのか、僕は物凄い勢いで強くなっていった。
 地元の同世代ではもう勝てる者がいなくなった小学6年生のころ、全国の将棋大会に出場した。
 さすがに、全国の猛者が集まるだけあって、一筋縄ではいかない戦いばかりだったが、それでも予選を全勝で突破し、ベスト4までトーナメントを勝ち上がった。
 (この分なら、優勝できそうだ……)
 あと2勝で全国一の座が見えてきた。
 心に慢心があったかと言われれば、否定はできない。しかし、そうでなかったとしても。奴は強かった。
 名前は、確か江辻隆太といった。
 勝負自体は、序盤から中盤までほぼ互角だった。
 しかし、終盤になり、僕の方が僅差で有利になってきた。
 そして、長手順ではあるが相手の王将に詰みがありそうだと気付く。が、分岐が多く、非常に難解な手順だ。
 詰めに行くときは、多くの駒を相手に渡すことになる。仮に読み間違いで詰まなかったとしたら、逆にこちらが負けとなる。ボクシングで大振りのストレートを放つようなもので、空振りしたら手痛いストレートをお見舞いされることになるわけだ。
 より安全な手も勿論ある。しかし、この江辻という少年も強い。もしかしたら、一手緩めた瞬間にこちらが詰まされるおそれもありえた。
 さらに、大熱戦だということでギャラリーも一層増えてくる。踏み込むべきか、安全にいくべきか……。どっちが正解なのか……。
 ようやく、自分の中で方針を決めたその時。大きな落とし穴が待ち受けていたのだ。

 気づいたのはギャラリーを含めた、悲鳴のような脱力したような大きなざわめき声だった。
 将棋大会の対局中にそんな大声が巻き起こるとは不自然だ。誰か人でも倒れたのか、まさか目の前の江辻少年が?
 そう思い正面を向くと、彼の視線は将棋盤の外に向けられているのに気づいた。その先にあるのは、アナログ式のチェスクロックだった。赤い板が垂れ下がって揺れているのは、僕が時間切れで負けたことを意味していた。
 「あ……」
 一瞬、頭が真っ白になった。読みに集中していて、すっかり失念していた。
 ギャラリーは「あぁ……」という声を漏らしながら、一人二人と散っていく。
 あとには、放心状態の僕が残された。
 その当時、デジタル式のチェスクロックを子供の大会で使うことは珍しく、持ち時間を使い切ったら即負けというシビアな世界だった。
 迷わず指し続けていたら勝てていたはず、何であんなに慎重になりすぎてしまったんだ。自責の言葉ばかりが頭に浮かんでくる。
 結局、大会はその江辻が優勝した。それでも僕は3位決定戦を勝ち、記録上では3位の銅賞で終えることはできた。
 全国3位は、傍から見たらそれでも立派な成績だったのではないかと今でこそ思う。
 ただ、小学生にしてみたら、銅の色は、金色の輝きに比べたら随分とくすんだ色という印象でしかなかった。
 テストの点数が振るわなかった時も、リレーで抜き去られた時も、『自分には将棋がある。将棋なら、誰にも負けない』といった心の支柱があったから、今までやってこれていた。それがその日揺らいで、そして一気に折れてしまったのだ。その日以来、僕は駒と盤を部屋の奥底にしまい、本やテレビをはじめとするありとあらゆる将棋に関連するコンテンツから遠ざかった。

 (将棋なんて、ただのボードゲームだ)
 (そのうち、必勝法がいくつか確立されて、それを暗記するだけのゲームになってしまうんだ)
 (将棋は捨てる。将棋から離れる。将棋なんか……将棋なんか……)
 
 大会終了後、数日の間は両親も慰めや3位という実績の礼賛をしてくれていたが、僕の〈将棋断ち〉が本気であることを感じ取ったのか、その後は家庭の話題に上がることはなくなった。
 中学に入ると、当時はやっていた漫画の影響で、テニス部に入部した。練習もきつかったし、結局レギュラーになれなかったりと活躍はできなかったけれど、まあそれなりに充実した日々は過ごせた。
 なにより、将棋無しでもそれなりに楽しい学生生活を過ごせたことが新たな心の支えになりつつあった。
 (自分は、将棋だけじゃない。なんだって、やろうと思えばそれなりにできるんだ!)
 そうして、自分の中にあった将棋の存在にそっと埃をかぶせて行った。

 *****

 「どうしても、あの時の続きがしたくてね」
 「……」
 僕が江辻に時間切れで負けた、あの準決勝の対局のものだった。
 「いい性格になったんだな。おかげで、またしばらく悪夢には困らなさそうだよ」
 「あなたの手番からです。今日は持ち時間は無制限で」
 無制限と来たか。つまり、時間でなくて双方の実力のみであの試合の勝敗を確定させたいということだろう。
 江辻は完璧主義者だ。一局しか指していないが、将棋を通してそれは理解した。無駄駒を作らず、全ての駒が何かの役割を持つように動かすその指し手がそれを物語っていた。
 「……OK」
 僕は引き受けた。負けたところで、失うものは特にない。ただし、たとえ勝ったところで、得るものもない。僕にとって、将棋は既に心の支えではない。なにものでもないから。
 そしてこの局面で、指すべき方針も、指す手順もは既に3年前に決断していた。今はそれを再生するだけだ。ゆえに、持ち時間など、必要ない。
 
 ――パチッ………
 僕が攻める。
 「一つ、勘違いしないでほしい」
 美月が後方から話しかけてくる。通常、対局中に話掛けてくるのはマナー違反ではあるが、どういったことを話してくるか興味があったので、制したりはしなかった。
 
 ――スッ………
 江辻が金将を横にスライドさせて受ける。
 「依頼には条件があった」
 
 ――ピシッ………
 江辻の桂馬を銀将で取り、攻める。
 「『もし、ケーヤが将棋をやめていたら連れてこなくていい』って」
 
 ――カチチッ………
 江辻が銀将を取る。その手は僅かに覚束ない。
 「でも、ケーヤは将棋部に居た」
 
 ――ビシッ………
 盤の隅でくすぶっていた角行を中央に展開し、王手を掛ける。
 「将棋部で駒をいじってた」
 
 ――パチリッ………
 江辻が王将を真下に逃がす。王将は升目から僅かにはみ出ていた。
 「あたしに教えてるときも辛そうに見えなかった」
 (それは……。美月だったからだよ……)僕は心の中で呟く。
 
 ――ピシッ………
 持ち駒の歩兵を打ち、攻める。
 「念のため、3日間様子をみたけど」
 
 ――カチッ………
 江辻が王将を左下に逃がす。その際に僅かに左隣の香車に触れて、香車が斜めになった。
 「ケーヤの中で将棋はなくなってなかった」
 (美月からは、そう見えていたのか)
 当人のことは、当人にしか分からないことがほとんどだろう。しかし、当人だからこそ見えていないこともあるのかもしれない。鏡とか、写真とか、そういったものを使わないと、そもそも人間というものはは自分自身の顔さえ知ることができないのだ。
 美月で言えば『笑顔の魅力』だろう。僕はそう感じていた。
 僕で言えば、それは『将棋への想い』なのだろうか……。
 
 ――ピシッ………!
 ひときわ大きい音で持ち駒の銀将を打つ。後は簡単な追い詰めだ。江辻ほどの実力者なら既に理解しているだろう。
 勝敗は決したのだ。あの時の自分の読みが正しかったことが、3年の歳月を経て証明できた。
 「だから、今日、来てもらったの」
 美月の贖罪ともとれる話もちょうど終わったようだ。
 
 「……負けました」
 江辻が持ち駒に手を被せながら、頭を垂れる。それを見て、僕は静かに拳を握り締めた。
 しかし、勝利に喜んだわけではなかった。頭の中にあるのはもっと別のことだ。僕は、対局中に浮かんできた疑念を確信に変えるために問いただす。
 「……どうして、投了? そっちは詰まないけど?」
 僕が発した言葉に、江辻は虚を突かれたようだ。
 「持ち駒の桂馬でピッタリ詰むでしょう。簡単な手順です」
 (そうだ。確かに、桂馬があれば詰むけどな)
 「きみこそ、何を言っているんだ? 持ち駒に桂馬など持っていないけど?」
 僕の不意打ちに、江辻ははじめて動揺した様子を見せた。
 「7手前に、こちらの銀将と交換したでしょう」
 「どうだったかな、したかもしれない。でも、その桂馬は『物理的に、今、どこにある』んだ?」
 僕は両手を広げて肩をすくめてみせる。
 江辻は言葉に詰まった。その様子を見て僕は確信した。
 「なぁ、江辻。両眼、どうしちゃったんだよ……」
 僕は、広げていた右の掌から桂馬を駒台の上に転がした。カランという音が、部屋に広がる。
 この桂馬は先ほど、江辻が頭を下げて投了した後に素早く握り締めていたのだ。江辻にも美月にも分からないように。
 その後、江辻を挑発した際に目の前で広げて見せていたのに、彼はそれを指摘することができなかった。それは、彼が光を失っていることの何よりの証拠だ。
 「……ふぅ」
 観念したのか、江辻はもう動揺していなかった。そのかわりに一つ、小さな息を漏らす。
 「気づかれてしまいましたか……。実は、あの大会の直後からちょっとした病に罹り、今は全く見えていません」
 「……」

 恐らく、美月が対局中に不自然な話を延々と続けていたのは、僕の差し手を盲目の江辻に伝えるため、事前に取り決めをしていた〈通し〉の暗号だったのだろう。暗号のルールは全く見破れなかったが。
 江辻は、静かに語り始める。
 「……光を失い、最初は将棋なんてやめてやろうと自棄になったりもしました。しかし、時間が経っても、脳裏から将棋を追い出すことが一向にできませんでした。
  そのうち、逆にそれが将棋だけに専念できる環境だと考えることもできると気づいたのです。
  それから、毎日健常な人と同じように振舞えるような訓練を重ねました。……結局、まだまだ修行が足らなかったわけですが。気づいたら、3年が経っていました。
  よほど印象に残っていたのでしょう。その間も、あの対局のあの盤面が暗闇の中には、毎日のように浮かびました」
 「試合に勝って、勝負で負けた、という状況だったからだと思います。勝手な思い込みですが、この試合の顛末をきっちりと終わらせないと、私の第二の人生は始まらないと思ったのです」
 「それなら、今日が第二の人生のスタートだな」
 「ありがとうございます。次にお会いする時は、今の私と勝負をしてもらいますよ」
 「……ん。ああ」
 あいまいに答えたが、あいにく僕のほうには明日からも将棋をするつもりは全くなかった。
 将棋への歪んだ偏見。将棋の未来に僕が感じた閉塞感。それをここで語るのは容易い。
 しかし、江辻の将棋への情熱は本物だ。光を失った後は、それを基軸にして今日も生きているようだ。
 そんな人間に、僕の思いをぶつけるのはさすがにためらわれた。
 「ともかく、これで全部終わったはず。……俺は、学校に戻る。まだ部活動の時間が残ってるから」
 江辻は小さくゆっくりと頷いた。特に不満はなさそうだ。
 そして、美月は。相変わらず無表情な顔をしているが、部屋を出て行くことに異論はなさそうだ。
 ドアを閉める直前、最後にもう一度だけその姿をじっと見た。
 (『瀬田桂夜』じゃなくて、『江辻の依頼した人物』に用があったんだよな)
 自分が普通に生きていたのでは、話をするきっかけさえなかったであろう同い年の美少女。
 数日間のやりとりも、果たして、幸だったのか不幸だったのか。今はまだ判断が下せるほど心は冷静ではなかった。
 僕は、くすぶりはじめた想いを振り払うようにして、〈Cルーム〉を後にした。
 
 *****
 
 僕は、校舎に戻ってきた。部活動の時間は残り30分程度だ。勿論、軽音楽部の枠は開いていないだろう。
 しかし、顔を売っておけば、もしかしたら明日の最終日に潜り込めるチャンスが生まれるかもしれない。
 そんな淡い期待で音楽室を訪れた。
 例の「本日満員御礼 またきてね~♪」の張り紙はなかった。軽快な音楽に誘われるようにして、ドアを静かに開ける。
 入り口から中を覗いてみると、ギター、キーボード、ドラム、パーカッション。様々な楽器から、様々な音色が生まれて溢れ返っている。
 これこそ、僕の思い描いていた高校生活だ。
 「キミ、仮入部希望の子?」
 「あ、はい……」
 僕の存在に気付いた男の先輩が話しかけてきてくれた。
 「ちょうど、さっき早退しちゃった子がいるから、寄ってく? 今からだと30分もないけど」
 「えっ、あっ、はい! ぜひ!」
 その早退した子には悪いが、幸運としか言いようがない。僕は4日目にしてついに、音楽室のドアを越えることができた。
 「楽器は個人のを持ち込んでもいいし、備品を使ってもオーケー。ピアノは確実に順番待ちになるね。中にはジャズとかやる連中もいるので、吹奏楽部とかも交流があるよ」
 先輩は、あれこれ指差しながら部活動の説明を丁寧にしてくれる。
 「キミ、楽器は何かしてる?」
 「えーと、ギターやりたいんですけど……まだ独学ではじめたばかりで」
 「なるほどね、ギターは上手い奴が一人いて定期的に講座を開いているみたいだから、習うとあっというまに上達すると思うよ」
 想像以上に、素敵な部活動じゃないか……。きっと、顧問の先生もまともに違いない。
 もう決めた。僕はこの部活動に骨をうずめるぞと心に決める。本当にうずめてしまったら、事件になってしまうので、あくまでも比喩だ。
 辺りをしげしげと眺めていたが、ふと、不可解な光景を眼にした。
 「……曲がりくねったみーちー♪
 可愛らしい女の子の歌声とピアノやドラムの音が聞こえるのに、音楽の聞こえる方向には楽器を弾いている男子生徒が一人しかいないのだ。
 「……!?」
 じっと見ていると、男子生徒が近くにあったパソコンのキーを軽く叩く。すると、音楽も鳴り止んだ。
 (なんだ、録音か)
 これは、メンバーが集まらないときや、一人で繰り返し練習するには非常に重宝しそうだ。音楽も進化しているのだなと感じる。僕なんかはギターの初心者も初心者なので、最初のうちはこうして練習をするのが迷惑にならなくてよいかもしれない。
 僕の視線に気付いたのか、先輩が説明をしてくれた。
 「ああ、あれね。高楠くんがやっているのはDTMっていうんだ」
 「ディーティーエム、ですか?」
 「そう。デスクトップミュージック。あらかじめ、インプットしておいたとおりに、コンピュータで曲を演奏させることができるんだよ」
 「は、はぁ……」
 「そうだなぁ。例えば、ギター音を7音以上同時に出したり、とてつもなく速くて細かい動きも毎回完璧に演奏できたりも自由自在だよ」
 最初は、録音とどう違うのか、何がメリットなのか、図りかねていた僕にもだいぶ理解できてきた。これはなかなか便利そうだ。
 「つまり、ボーカル以外はコンピュータって演奏させたりできるってことですね」
 「お? いやいや、あのボーカルもコンピュータだよ。今はだいぶ種類も増えて、老若男女色々あるんだよ」
 「えっ、ボーカルもですか」
 僕は驚く。あれだけ滑らかに歌っていたのに……。確か、パソコンに付属しているようなテキストリーダーはもっとカタコトな話し方だった気がするけれど。音楽用は特別なのだろうか。
 「それだけじゃない。実は、作詞作曲編曲、今はこういったものも全部コンピュータで自動生成できるんだよ。和声法とか対位法って知ってる?」
 「い、いえ……。すみません」
 「えーと、まあ簡単に言うと、人間が『あ、いいな』って思える曲って、ある程度は法則化できるんだ。それをコンピュータでランダムに組み合わせたりすると、曲自体は簡単にできるんだ。詞もアレンジも同じ要領だね」
 突然の話に、なかなか頭が追いつかない。便利そうで、いいなとは思うんだけど。それって、つまりは。
 僕は膨れ上がってきた疑問を先輩に投げかけてみる。
 「でもそんなのがあったら、音楽やってる人たちみんな困らないですか? 新曲もコンピュータで作れて、完璧で凄い演奏もコンピュータでできちゃうなら、みんな、何を音楽に求めるんでしょうか?」
 決して、困らせるつもりで言ったわけじゃない。
 でも、先輩は僕の問いにすぐ答えられなかった。
 「……実は、さっき早退しちゃった子も同じような反応でね。最近、音楽CDが全然売れないのは知ってるよね。ミリオンヒットはいまや過去の話、音楽番組も視聴率を取れない。……今じゃ、音楽というものがゆっくりと衰退してるのかもしれないね」
 「そんな……」
 そんなことないですよね、と言いかけたが、言葉を続けることができなかった。

 *****

 その後、僕は部活動終了時間まで音楽室に入り浸っていた。結局、念願の仮入部は果たせ、過ごすこともできたものの、頭の中はすっきり晴れない状態だ。
 近くの窓から、眼下を見下ろすと生徒が徐々に下校していく様子が見えた。
 彼らは身体は疲れているはずだが、充実した表情を浮かべて楽しそうに見えた。楽しそうに見えるのは、一体何故だろう。
 (将棋も斜陽、音楽も衰退……か)
 楽しみにしていた高校生活がついに始まったかと思っていただけに、一層大きく感じられる閉塞感が僕を包みこんでしまったようだ。
 (一体、どうしたらいいのか。見当もつかないや……)
 夕陽が廊下に一筋の影を作った。視線を向ける。
 それは、よく知った人物――泉西先生だった。
 てっきり、「将棋部来ないで、軽音楽部に行ってたのか!」などと言われるのかと覚悟していたのだが、そうではなかった。
 「どうした瀬田、元気ないようだが」
 声色も普段と違っているように感じる。
 (みりゃわかるでしょ。でも泉西先生には僕の悩みなんてわかりっこないさ)
 「『みりゃわかるでしょ。でも泉西先生には僕の悩みなんてわかりっこないさ』って言わんばかりの顔だな。ってこら! お前、俺さまを相当見下してやがるなっ!?」
 思っていたことを一字一句ぴたりと言い当てられて、僕は驚愕する。まさか、読心術というやつだろうか。
 「『読心術』っちゃあ、『読心術』かもな。現国教師の力をなめるなよ。ちなみに、いい女性になかなか巡り合えず『独身術』もしっかり身につけてるがな。……って、余計なことしゃべらせるな!」
 「勝手にしゃべってんじゃないすか!」
 普段と違っているかと感じたが、どうやら思い違いだったようだ。
 はっはっは……と泉西先生はしばらく笑っていたが、急に真面目な顔になり、僕に向き直る。
 「迷ったら、何かやっとけ、だ」
 「え?」
 「信じるかどうかはお前に任せる。昔話&独り言だ。
  学生時代の俺は、この『読心術』っぽい能力のせいもあって、周りから必要以上に避けられていたな。『泉西に近づくと、秘密が覗かれるぞ!』ってな。落ち込んでいた俺に、担任の先生だけがこう言ってくれたよ。『君の力は実にすばらしい。将来は、その力できっと多くの人が救われることだろう』
  嬉しかったな。必要とされるってのは悪くねぇもんだ。この力を活かしつつ、できなかった楽しい学生生活をもう一度やり直したい、と思ったらスクールカウンセラーしかないと思ったんだ。目標ができたからな、勉強したよ。したけどさ、ダメだった。暗記物はさっぱりだった。
  気付けば、俺は動物園のペンギンの世話をしていた。北国の冬は寒かったが、ペンギンたちは可愛かったよ。楽しかったが、散歩中のペンギンに大脱走されて大渋滞を起こして、大目玉を食らってあっさりクビになったよ。ペンギンの心は全く読めなかったな。
  手っ取り早く稼ごうと思って、雀荘に入り浸ったらこれが予想通り大儲かりでな。儲かりすぎて、目をつけられて、跡もつけられて、海に沈められかけて。
  で、気づいたら、この高校で教師をしてた、というわけだ!」
 「……ぶっ飛びすぎでしょう」
 「まあとにかく、だ。こうやって、お前と話ができてるってことは、俺の昔の夢が一つ叶いかけてるってことだろ? どうしようもないことばっかだったけど、立ち止まったり、何もしなかったりしなかったのが良かったんだと思ってるぜ。……こう見えても、うれしさのあまり、俺の中では盛大にお祭りが開催されております」
 「は、はぁ……」
 気付けば、辺りは既に暗くなり、屋外では街灯が灯りつつある。
 「と、まあいろいろ言ったが。何かしてなきゃ何も変わらんもんだ。状況が勝手に変わることはめちゃレアだ。良い方向に変えたければなおさらだな。だから、何かやっとけ。学生時代は長いようで短いぞ!」
 最後にそれだけ言うと、泉西先生は踵を返し薄暗い廊下に消えていった。
 (何かしないと何も変わらん……か)
 状況が芳しくなくても、何もしないままだと事態は一向に良い方向に向かわない。その考えは奇しくもパスの許されない将棋も同じだ。
 明日の僕は、どんな決断を下すのだろうか。

 

 小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(5/5)に続く

 

小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(3/5)

 *****

一日は短い 悩むにはもったいないから
今日もベストの自分をイメージして走ろう!

 *****

 

第三章 『水曜日』

 

 翌朝、僕は始業前に2組の琴羽野さんを訪ねた。なんだか気恥ずかしいので、昨日と同じ別館の廊下にばらばらに移動してから、話を始めることにした。
 「あれから、どうだった?」
 まずは、そこから。既に解決済みであれば、僕の出番は不要だ。
 「全然ダメ。年月日じゃなくて、歩数とか戦場とかでも色々と調べてみたんだけど、歴史研究家じゃないから詳しくもないし……」
 「そもそも、おじいさん、歴史好きだったの?」
 「えっ!? えーと、いやそういうのは、あんまりなかったかなぁ……」
 「あと、暗証番号って、自分で設定できるものなのかな」
 「それはできるみたい。古い金庫だったけど、製造メーカーとか製造型番から調べられて」
 そうすると、縁のない番号に語呂合わせをあてがったりしたわけではなく、自分で覚えやすい番号を設定できたわけだ。
 金庫に貼り付けられた紙は間違いなく暗証番号を意味するだろう。ただ、そのまま番号を張り付けたのでは鍵をしていないのと変わらない。
 自分しか知りえない番号を守り続けるためには、歳を取っても思い出し続けられる〈自分なりのルール〉を持っていたはずだ。
 「おじいさんって、囲碁とか将棋とかやってた?」
 突然投げられた直球の質問に琴羽野さんはかわいそうなくらい狼狽する。
 「えっ? えーと……。確か……将棋はやってた気がする。というか、和室の押し入れに盤と駒と『なかとびぐるまをさしこなす本』っていう本も何冊かあった気がする」
 (それは、佐波九段の『中飛車(なかびしゃ)を差しこなす本』のことだな。……僕も持ってる)
 「ありがとう」
 そうすると、想定した番号の裏付けがかなり高まった。
 将棋でいう天王山とは盤面の中央部分、俗に5五の位と呼ばれる枡目のことを意味している。
 歩数はおそらく、歩いた数のホスウではなく、歩の数――歩兵の駒の数のことだろう。すると、敵味方の双方9枚ずつで合計18枚となる。
 ここまでで、55、18という数が一旦浮かび上がってくる。そして、『戦場の下』。
 将棋で戦場と言えば、将棋盤のことだろう。その下には盤の脚がある。その脚は〈クチナシ〉が象られている。
 昨日、リビングにあるPCで色々と調べてみたところ、クチナシ(サンシシ)は黄疸の症状に効能があるという記述が見つかった。
 琴羽野さんのおじいさんの症状は黄疸のそれとよく似ていた。死因も肝不全だったことを考えると、生前に日常的にサンシシを飲んでいて、暗号に使うことを思いついたという可能性はそれなりに高いように考えたのだ。
 55、18、そしてサンシシ(344)。
 「5518344、もしかしたら、最後の344はクチナシがひっくり返っているから5518443かもしれないけど」
 少なくとも、失敗しても時限爆弾のように爆発することは無いはずだ。
 「早速、試してもらうね」と自宅にいる母親へ通話している様子をドキドキとしながら見守る。高校受験の合格発表が再来したかのように鼓動が高鳴り続けている。
 しばらく、静かな時間が流れる……、そして。
 「――っ! 開いたって!」
 「おぉっ!」
 二人して思わず歓声を上げる。
 速報によると金庫の中には、土地の権利書や株券と一緒に、似顔絵や小物をはじめ、家族がこれまでにおじいさんにプレゼントしたものがぎっしりと大切にしまわれていたようだ。
 家族が大好きだったのだろう、自分の最期を何となく感じて、大切な一日一日を宝物と一緒に宝物の近くで過ごしたかったのだろう。
 「おじいちゃん……」
 琴羽野さんの眼の端に、光るものが見えた。しかし、それは悲しさからは格別した、別の感情から生まれているもののような気がした。
 「瀬田くん、本当にありがとう。今度、きっとお礼するから……」
 純粋にパズルが解けた喜びもうれしかったし、家族のありがたみを再確認させてくれたのもうれしかったけど。
 人からありがとうって言われるのもやっぱり、嬉しいなと思った。
 
 *****
 
 3時間目の英語の授業が終わった。
 高校の授業は、教室移動が面倒だ。中学のときは、これほど頻繁に移動した記憶はない。
 (次は……、また1階に戻るのか)
 午前中からこんなに移動をしていると、弁当の質量に不安を感じる。果たして、十分なエネルギーを補えるだろうか。頼れる炭水化物の塊――コロッケパン――を補充する計画など立てておいたほうがいいかもしれない。
 (うん? なんだこれ?)
 席を立つ前に、机の下を確認すると、見慣れないノートが置いてあるのに気付いた。
 (僕のはここにあるしな……)
 おもて表紙を見ると、〈4組 蒼井妃冨〉とあった。下の名前は難読だけど、苗字はアオイさん、で当確だろう。
 4組なら、1組に戻るルートの途中で寄るとしてもそれほど徒労ではない。ここはひとつ、届けてあげるのが紳士と言うものだろう。
 階段を降り切った後、右手側に4組はある。
 「ちょっと、すみません、蒼井さんって今いますか?」
 教室の入口で、立ち話をしていた女子3人組に話しかける。昨日までに、美月とそれなりに会話を重ねたせいか、思ったよりも自然に会話ができたことに自分自身驚いた。
 「あ、いるよー。呼んでこようか?」
 「いや、そこまでの用事じゃないからいいです。これ、ノートの忘れ物っぽいので。渡してもらえますか?」
 「そういうことね。OK」
 英語ノートを手渡すと、僕は4組を後にした。
 今日は、朝から着実に善行を積んでいる気がする。これは、きっとよいことが起こる予兆なのではあるまいか。

 (なんてこった。まさか、ど真ん中に埋め込んでくるとは……)
 よいことどころか、楽しいはずの昼食の時間は、突然襲ってきた厄災により崩壊した。きっと、かつて大繁栄し、突如理不尽な隕石によって絶滅した恐竜達も似たような感情を抱いたことだろう。
 そう。好物の鶏の唐揚げの中心部に、僕の不倶戴天の敵――ピーマン――が何故か入っていたのだ。
 思い切ってほお張った僕も完全に油断していた。三国志で言えば、勢い良く追撃をかけたものの、銅鑼の音と共に待ち伏せを喰らった負け軍師のようだ。
 咀嚼したものを出すのはさすがに憚られた。思い切って、ペットボトルの緑茶で流し込む。
 (はぁ……。ヒドいめに合った……)
 敵ながら天晴れだったのが、市販の唐揚げそっくりだった点だ。僕がピーマンを拒絶するのに比例して、母の加工技術が飛躍的進歩を遂げているのを感じる。ノーベル食品工学賞がもしあったなら、一躍時の人になれそうだ。
 とはいえ、喉もと過ぎればなんとやら。せめて、胃酸にもまれてもがき苦しんでいる(?)宿敵――ピーマンの悲鳴を夢想しながらうたたねでもしてるか。
 そう思い、机に伏せようとしたが……。
 「瀬田くん、4組の福路くんが呼んでたよ」
 (袋? 復路?)
 うたたねのチャンスはあっさりと失われた。昨日の女子が僕のところにそう告げに来たのだ。このパターンはまさか……。
 廊下に出ると、銀縁メガネをした男子生徒がおずおずとしながら廊下に立っていた。
 「えーっと、君がフクロくん?」
 「ということは、君が噂のセタくんなんだねっ」
 フクロくんはそういう性格なのか、「こういう者です」と言うと、生徒手帳に書かれている名前を名刺のように差し出して自己紹介をしてきた。
 (福路、浩二……ね)
 名前を確認してから見上げると福路くんの表情に、昨日の琴羽野さんと同じものを感じたので、念のため確認してみる。
 「もしかすると、何か相談事だったり……」
 「うおっ。さすが、名探偵だ!」
 これは、うかつだった。自らハードルを高くしてしまう結果となってしまった。
 福路くんは目を輝かせたかと思うと、次の瞬間には神妙な顔つきとなり顎に手をあてながら話し始めた。
 「実は、数日前から彼女の態度が急に冷たくなった気がしてて……。思い当たるふしが全然無くて、八方塞がりなんだ」
 「へ、へぇ……」
 これまで奇跡的に相談事を解決へと導けていた僕だったけれど、恋愛沙汰の問題となると、これは全く力が及ぶ気がしなかった。
 女の子の気持ちなんて、山の天気のようなものだろう。きっと些細なことなんだろうけど、本人にはとても重要で、そんなこと第三者の僕が予想できそうな気がしない。
 さりげなく、当人に聞き込みをするにしても、見ず知らずの女子に近づくのは非常に難易度が高いように思われる。奇跡的に、美月が知り合いで、仲介をしてくれるとかがあれば話は別だけど。
 「ちなみに、その彼女っていうのは、4組のアオイヒトミっていうんだけど。知らないよね……」
 「えっ?」
 「えっ!?」
 僕の反応に、福路くんも驚く不思議な状況になってしまった。
 アオイ、ヒトミ? もしかして。
 「知ってるかも! えーと、ヒトミのヒが女偏に己のヒだったりする?」
 「そうそう! えっ、なんで知ってるの?」
 僕は、さっきの英語ノートの忘れ物の件を簡潔に話した。「納得納得。小中の頃から忘れ物おおい子だったんですよね……」としきりに頷いている。どうやら、人物像は一致したようだ。
 入学式を終えてまだ数日しか経っていない段階で、「彼女の態度が冷たくなった」という関係とのことだから、ある程度予想はできていたが、そういうことだったか。
 (それなら、もしかしたら少し取っ掛かりがある……かな)
 依然として不安感は拭いきれないが、ここで無下に相談を拒否するのも憚られた。高校生活は始まったばかりなのだ。仮に解決できなくても僕に損はないし、もし解決できたらできたできっとプラス評価となるだろう。
 「うーん、じゃあちょっと調べてみるから」
 「本当かい!? それはとても助かるよ」
 「まあ、でも。あんまり、期待しすぎないでね」
 保険をかけておこうと思って被せようとしたセリフをを聞き終わるよりも早く、福路くんは足取り軽く立ち去ってしまった。
 どうやら彼氏の方もけっこう早とちりしそうなタイプみたいだなぁ。

 高校生としての任務から解放され、放課後になった。
 慣れた足取りで将棋部の部室に向かい、手際よく、盤と駒を準備する。
 春のうららかな日差しを浴びながら、美月はまだだろうか、と思いを馳せる。

 って。

 良く考えたら、仮入部期間は既に三日目に突入してしまっている。美月へのレクチャーはそれなりに充実した時間であることは否定しないが、それは平日の放課後である必要は無い。今日こそ、なんとか別のつながりを作って軽音楽部で音楽活動をスタートせねば。
 僕は、駒を並べ始める。美月が来たら、いきなりレクチャーに入ってしまう作戦だ。余計な時間は極力カットだ。
 ところが、駒自体は初形に並べられたものの、妙にしっくりこない。
 もしやと思い、8つある駒箱とその中に入っている駒を改めると、どうやら何種類かの駒がごちゃまぜになっているようだ。
 将棋の駒にも、材質や書体など様々ある。単純に使うだけならば役目として問題はないけれど、なんだかこうすっきりとしない感じだ。
 あれこれ見比べながら、盤に広げた1組とその他7組を照合していく。
 (あぁ、何やってんだろう。こんな状態で美月が来てしまったら、作戦台無しじゃないか……!)
 噂をすればなんとやら、幸いにもちょうどすべてが終えたくらいに美月は部室に現れた。
 「あ、今日はもう並んでる」
 「ん、ああ。ちょっと時間があったから」
 (はー、作戦無事成功……。ってもう疲れてどうするんだよ)
 そう思ったのもつかの間。
 椅子に座って盤面を見回した美月はぽつりと一言「あれ? いつもと違う」などと不思議なことを言う。
 「え? 違くないよ。いつもどおりだよ」
 人生でこれまで、何度、この初形を並べてきただろうか。間違えるなどと言うことは断じてありえない。それだけに、僕も少しムキになって反論した。しかし美月も譲らない。
 「ねえ、大丈夫? 駒だよ駒。〈王将〉じゃなくて、〈玉将〉になってる。」
 「はい?」
 そう言われて、やっと僕も気づいた。確かに、美月の方だけ〈玉将〉と書かれた駒が並んでいたのだ。
 しかし、それは。
 「ああ、それはそれでいいんだ。欠陥じゃないよ」
 「……?」
 美月は、眉根を寄せて「訳が分からない」といった表情を浮かべている。
 美月のように、知らない人は知らないし、僕のように、知っている人は当然知っている事実。
 将棋の駒には、〈王将〉と〈玉将〉の二種類が存在する。通常の駒のセットならば、一つずつ入っている。
 〈王将〉という言葉の方が圧倒的に耳馴染みがあるだけに、玉将という言葉自体「王将の間違いでは?」という考え方は確かに自然かもしれない。
 しかし歴史的にみると、むしろ初期の将棋では〈玉将〉しかなかったとさえ言われている。現存する最古の駒には玉将は3枚含まれていたが、〈王将〉は一切含まれていなかったという事実もある。
 元々、将棋の駒は『お宝』を現していたようだ。〈金将〉〈銀将〉は言わずもがなゴールドとシルバー、桂馬は肉桂(シナモン)、香車は香木といった具合だ。
 この流れでいえば、〈玉将〉の玉は宝玉のことだ、と言う説を聞いてしまうと〈王将〉より〈玉将〉のほうがしっくりする気さえする。
 その後、時代が進むにつれて、王と玉の字が似ていること、三国志にも登場する『天に二日なく、地に二王なし』――王は二人もいらない――、といった趣向と交じり合い、いつの間にか〈玉将〉と〈王将〉を1枚ずつ使うようになったと言われている。
 さっき、8組の駒箱を再整理し終えたけど、昨日までは〈王将〉と〈玉将〉の組合せがごちゃ混ぜで使っていたのだろう。
 といった内容を僕は淀みなく話す。
 が。
 ……美月さん、目付きが鋭いままなんですけど。
 「そんな説明、今まではなかったよね?」
 将棋を指している人間にとっては、『どっちでもいい』ことだ。
 しかし、この将棋初心者にはそれは通じなかった。元々、猛禽類のように鋭い美月の目線は今にも襲い掛かってきそうに見え、僕は思わず視線をそらす。
 ここは一つ、怒りの矛先をそらすために、架空の叔父さんに登場いただくことにした。
 「まあまあ、落ち着いて。親戚に『大』きいに『志』でタイシっていう名前の叔父さんがいて、しょっちゅう漢字を『太』いに『志』ってに間違えられたり、ヒロシって呼ばれたりしてるんだけど、『どっちもそんなに変わらんしな』ってぜんぜん気にしていないんだ。確かに、」
 「……」
 が。
 ……美月さん、目付きがもっと鋭くなってるんですけど。
 「……デコピン」
 「はい?」
 「デコピン1発で勘弁したげる」
 ……どうやら、判決が下されたようだ。まあでも僥倖だろう。デコピン一つでこの局面が打開できるならありがたい。表面上は「しょうがないな」という表情を作っている僕の顔に、美月の指が伸びてきて――。
 
 ビシィッッッッ……!!
 
 「っ痛あっ!!」
 額に、衝撃が走る。なんてパワーだ。とても年頃の女子のものとは思えない。骨伝導のせいなのか、凄い音がした気がする。脳に悪影響が出なかっただろうかと不安になる。
 昔から、将棋盤に遠慮なくビシバシ駒を叩きつけていたが、その報いが今まさにまとめてやってたとでもいうのか……。
 その衝撃を受けて、身体のバランスを崩し、椅子ごと後ろに倒れこんだ。そして、黒板の下の壁に身体がぶつかり、その衝撃でちょうど上にあった黒板消しが頭の上に落下してくる。
 僕は額の苦悶、チョークの粉でむせてしまう。なんとも情けない姿だ。しかし、悲劇はそれで終わらなかった。
 鼻がむずむずする。
 (やばっ、よりによってこんなときに……!)
 僕の願いも空しく、それは起こる。
 「――っぐわあっくしょおおおぉい!!!!」
 豪傑の咆哮のような爆音と、対比的に訪れる静寂。
 人に言えない恥ずかしい秘密の上位に位置する”見かけによらず、くしゃみが派手”が、知られたくな人物に知られてしまったのであった。
 「……っ。ははっ」
 見上げた美月の顔は、年相応の女子の顔で笑っていた……。左頬には笑窪も見える。
 (……なんだよ、フツーに笑えるんじゃん)
 そして、その笑顔を見て反則的に可愛いと感じる。瀬田桂夜は織賀美月に惚れているのだ、と何故か冷静に感じてしまった。思わず、額の痛みや恥ずかしさも忘れてその笑顔をまじまじと見つめてしまった。
 しかし、それは刹那の出来事だった。
 苦しんでいるはずの僕が急におとなしくなり、美月も、自分が無意識のうちに笑顔になっていたことに気づいたようだ。顔はいつもの無表情なものに戻っていた。
 「……見た?」
 「えっ?」
 「笑ってるとこ、見たでしょ」
 「え、あ、まあ……見たといえば見た……けど」
 すると、美月はカバンを手にして、すっと立ち上がる。
 「あたし、笑窪って嫌いなの。人に見られるのがヤなの」
 (もしかして、いつも無表情なのって……)
 そういう理由なのか? だとすれば、それはどれだけもったいないことか。
 しかし、笑窪のできる人には、できる人なりの悩みがあるのかもしれない。笑窪のできない僕に、そういう人達に向かって単純に「笑窪万歳」と礼賛する権利はないのだろう。
 表情こそ変わらないが、美月の眼と声には普段以上の力強さがあった。つまり、美月にとってそれは重要な事柄だというなによりの証拠だ。僕は圧倒されて、沈黙してしまう。
 そもそも、僕だってさっきのくしゃみだけでなく、高校の同級生には大っぴらにしたくないことがいくつかあるのだ。
 僅かな沈黙の時間のあと、「今日はもう帰る」そう言って、美月はすたすたと教室を出て行ってしまった。
 引き止めるのは無理だったにしても、せめて「そんなことないよ」という気落ちだけでもなんとか伝えておけなかったものだろうか。それだけが悔やまれた。
 しかし、一つ救いがあるとするならば。
 美月は「今日『は』帰る」と言っていた。それは、明日も来る、ということの裏返しではないだろうか。それは、都合のよい考えだろうか。
 結局、今日の二つの計画はあえなく両方とも完遂することができなかった。せめて、首の皮一枚繋がっていればと願うばかりだ。
 さて、美月が去ってしまった今、この部屋にいる理由は全く無い。手早く撤収しないと、ヤツが姿を現すおそれがある。
 「ハロー!!」
 (間に合わなかったか!)
 こういう時ばかり直感が優れているのも空しいものだ。現れた泉西先生を見て、僕は小さくため息をつく。
 「少ね……いや、瀬田よ。今、例の可愛い女子生徒がスカートを翻して走り去っていったが、痴情のもつれか? ……痴情? お前、ここは学校だぞ! 聖職者として断固許さん! お前の通知表の現国を史上初のマイナス値にしてやろうか?」
 「はいはい……、聖職者の泉西先生は、常にまず落ち着いてください……」
 「ふー……、ふー……」
 僕は、興奮した泉西先生にでもわかりやすいように、噛み砕いて先程の出来事を話してみた。
 「なるほどな。国語教師の立場からすると、テストだったらペケだな。」
 「ペケ、ですか」
 「まあ、男としての立場なら『どーでもいい』だがな。相手は女子だぞ。別種族だぞ。点があるとかないとか、そういう細かいの気にするんじゃね?」
 泉西先生はどうやらナイスアドバイスができたと満足したのか、美月が不在となったからか、それだけ言うと大人しく教室を出て行ってしまった。
 (僕に絡んでくるやつは、どうしてこんなにマイペースなのばっかりなんだろう……)
 なんだか、高校生のうちにストレスで毛が抜け始めるんじゃないかと不安がこみ上げてきた。ただでさえ、父の頭頂部が最近危なくなってきている今日この頃だというのに。
 誰もいなくなり、すっかり静かになった教室の中で僕は一人片づけを始めた。駒と盤をしまい、ドアの施錠をする。カチリという金属音がした時、不意にさっきの泉西先生の言葉が浮かび上がってきた。
 
 ――点があるとかないとか――
 
 ――細かいの気にする――
 
 そして。
 今度は、自分の頭の中にもでカチリという音が聞こえた気がした。

 僕は科学部の部室を尋ねていた。入口から福路くんの姿を伺っていると、白衣を着た福路くんはこちらに気づいたようで、先輩に一言二言断ってからこちらにやってきた。
 「瀬田くん、もしかして?」
 「うん、なんとなく分かった気がする」
 「えっ、本当に!?」
 福路くんは実のところ、それほど期待はしていなかったのかもしれない。驚き具合からそう思えてしまうが、それは些事だ。まあ気にしないこととする。
 僕は、鞄からルーズリーフを一枚取り出して、「ここにさ、蒼井さんの名前、フルネームで書いてもらえる?」とペンを渡して促した。
 「? そのくらい、なんてことはないけど……」
 福路くんは不思議そうにしながらも、一文字ずつ字を書いていく。
 
 蒼 井 妃 富
 
 「音は簡単なんだけど、字が結構難しいんですよね……。さすがにもう書けるようになりましたが」
 福路くんはペンとルーズリーフをこちらに返しながらそう言う。
 ルーズリーフを受け取った僕は確信する。やはり、これが原因な気がする、と。
 「ありがとう。でね、言いづらいんだけど……」
 「?」
 僕は、福路くんの文字の隣に一つ字を書いて、続けた。
 「名前の漢字、間違ってると思うんだ……」
 「えぇ!?」
 福路くんは本気で驚いたようで、ルーズリーフをひったくると自分の文字と僕の文字をまじまじと見比べる。
 「点が……、無いっ!?」
 「実は先日、蒼井さんの名前を見る機会があったんだけど、トミは上の点が漢字の方だったんだ」
 『富』と『冨』、どちらも『トミ』と読み、形もほとんど同じで非常に紛らわしい。
 福路くんは「まさか、こんなワナが仕掛けられていたとは……。ということは、中学のときから間違えていたのか……」と呟き、わなないている。
 彼自身が言ったように、蒼井さんの名前は音の方は非常にシンプルで間違えようが無い。しかし、文字の方はなかなか手強かったのだ。
 『蒼』や『妃』という文字は日常生活ではなかなか目にする機会がない文字で少し珍しい。さらに、これを「間違えないように……」と強く意識すると、相対的に『冨』の方が疎かになってしまったのだろう。
 これが、王と玉のようにせめて読み方も異なっていれば、今回の悲劇は生まれなかったのだろうけど。
 「なんとか、仲直りする方法も考えないとだなぁ。……そうだ! 親戚で『富』の字が入る叔父さんがいて、間違えてしまったんだ……、とかどうでしょう」
 「うん。経験者の意見を述べさせてもらうなら、素直に謝った方がベストかな」
 僕は、額の赤くなったデコピン跡地を指差してアドバイスした。

 振り返ってみると、今日も色々と山あり谷ありな一日だった。
 琴羽野さんの依頼解決から始まり、ピーマン事変、美月のデコピンおよび笑顔、そして福路くんの依頼解決、と。
 家に帰り、ドアを開けると、玄関にまで美味しそうなあの匂いが充満していた。
 (カレーか!)
 カレーは僕の大好物である。365日カレーでも構わない。来世はインド人になるつもりでいるから、地理の授業中の度に、地図帳でインドの都市名をインプットことにしている。
 台所に入ると、匂いはますます強くなる。僕レベルになると、この段階で今日はチキンカレーで具にジャガイモと玉ネギとほうれん草が入っていることまでお見通しだ。
 僕は弁当箱を夕飯の支度に勤しんでいる母に手渡した。母は僕の弁当箱が空になっているのを確認すると、小さくガッツポーズを取っていた。
 (くっ……。明日は勝つ!)
 妙に挑戦心を煽られてしまう。母も、なんだか当初の目的を忘れて、純粋にバトルを楽しんでいるように思えてきた。

 

 小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(4/5)に続く

 

小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(2/5)

 *****

 白髪混じりの頭に汗を浮かべ、後退した額には深いシワ、苦しそうな表情を浮かべる初老のおじさん。
 その人が、僕のヒーローだった。

 *****

 

第二章 『火曜日』

 

 「瀬田! 昨日はありがとな」
 翌日、登校してきた勝田くんの笑顔を見て僕は肩の荷がすっとおりた心地がした。
 初っ端の笑顔がそのまま答えだったようで、新規開拓はの案はゴーサインが出たとのこと。親父さんを含めて急いで準備を進めているのだという。
 「ちなみに、ここだけの話なんだが、誰もが知っているあの野菜が真っ白になった新種を国内初で取り扱うってことらしいぜ」
 「そ、そうなんだ」
 緑色のアスパラガスと白いアスパラガスを頭に思い浮かべ、なんとなくトマトやらホウレンソウやらを白く変色させてみたがあまりいいイメージにはならなかった。
 見慣れて、それが日常になれば当たり前になるんだろうけど。
 白い何かの野菜がブレイクするか否かは一旦おいておき、勝田くん的には父親から小遣い増額の交渉材料ができたと喜んでいる状況で、何よりだ。
 「何か輸入したいものがあったら遠慮なく言ってくれよな! うちは法に触れるもの以外は何でも取り扱ってるからさ」
 と白い歯を見せながらニッと笑う。
 「ははは、ありがとう」
 気持ちはうれしいけど、今のところは石油とか南京豆とかイージス艦とか、僕は特に興味はないんで遠慮しておくことにする。

 *****

 授業も3時間目に入り、少々集中力が途切れてきた。しかも科目は英語ときたもんだ。英語なんて、将来は万能翻訳端末が流行して勉強の必要なんてなくなる、というのが僕の予測だ。優秀な人間は、優秀な道具や人材が使えれば良いだけだ。本人がスーパーマンになる必要はない。ほぼ父の受け売りだけど。
 窓の外のグラウンドを何気なく見下ろすと、体育の授業をやっているのが見えた。ジャージの色からすると、同じ一年生のようだ。
 (ん? あれは?)
 屈伸をしている一人の女子に目が留まる。あのポニーテール、どこかで見覚えが……。
 (あ、美月!?)
 「おいおい、速すぎだろっ!」
 美月は脚が恐ろしく速かった。陸上部の男子と同じくらいのレベルといっても過言ではないかもしれない。
 昨日、間近で所作を眺めたりしていたが、運動の類が特段優れているような雰囲気は無かった。小柄で、むしろ苦手な方かと思っていたので、そのギャップに驚嘆だ。
 (……おや?)
 教室の様子がおかしい。少しざわついて、皆、僕の方を見ているようだが……。まさか……。
 そのまさかだった。どうやら、思っていたことが口に出てしまっていたようだ。高校入学早々、なんという失態だろうか。しかし。
 「オゥ……。私は、もう一度読みます、ゆっくりと。なぜなら、生徒の中の一人から、要求を受けたためです。When I was young, I'd listen to the radio……」
 (危なかった……!)
 幸い、英語の石井英美先生は僕が『教科書を読むのが速かった』と勘違いしてくれたようだ。
 それにしても、美月の謎が深まる。あれだけの運動神経なら、運動部からは引く手数多だろう。それなのに、貴重な仮入部期間を将棋部などで消費している。
 今日、思い切って聞いてみようか。いや、それともそれこそやぶ蛇だろうか。

 *****

 昼休み。弁当の時間だ。
 (母め。甘い、甘すぎる!)
 玉子焼きの味付けが塩か砂糖かといった低レベルな話ではない。甘いおかずはおかずに非ず、という点は母と僕の数少ない思考の共有事項なので問題ない。
 僕は、巧みな箸さばきで弁当箱の中の焼きそばから細長いピーマンをススス……と抜き出していく。我ながら至芸の技だ。この域まで達すると、母が後天的に授けてくれた才能であると言ってもいいだろう。
 僕はピーマンが大嫌いだ。不倶戴天の敵だと認識している。人類は豊かになり、美味しい食材も多々あるのに、何故あんな青臭くて苦いものを食わなければならないのだ。全くもって理解に苦しむ。
 小学生時代や中学生時代は給食制だったので、毎日ピーマンが出てくるような悲劇は起きなかった。(そんな悪逆を考える栄養士がいたなら、民事訴訟を起こすつもりだったが。)
 しかし、大矢高校は給食制ではない。弁当を持参するか、買い食いをするしかない。
 非情にも先例(会社勤めの父のことだ)に倣い「買い食いしたければ小遣いから出すこと。※木曜日は除く」というルールが一方的に発布されたため、毎日の昼食は弁当を作ってもらう、ということにはなったのだが。
 ここに、ピーマンを食べさせようとする母と、それを拒む僕のランチバトルが勃発したのだ。
 最初のころは、堂々とピーマンの肉詰めやチンジャオロースーといったあからさまなメニューを展開してきた。しかし、僕がきっちりと残し続けるものだから、徐々にカムフラージュは巧妙になっていった。
 ピーマンを麺と同じレベルまで細切りにし、麺と絡めてきたが視認できる以上、僕の眼はごまかせない。
 さて。腹も満たされたことだし、勝利の余韻に浸りつつ、午後の授業まで昼寝でもするか。
 そう思い、机に伏せようとしたが……。
 「瀬田くん、2組の琴羽野さんが呼んでるよ」
 まだ名前を完全に覚えていないクラスの女子が僕のところにそう告げに来た。
 (はて、コトバノ?)
 聞き覚えがない名前だから、別の中学出身の子だろう。
 廊下に出ると、小柄な女の子がおずおずとしながら廊下に立っていた。体型は美月と同じくらいだが、やや丸顔をしたおとなしそうな子だった。
 「あの……。あなたが、瀬田くん?」
 「あ、えーと。そうだけど?」
 「ちょっと……ここじゃ話しづらいから……」
 そういって、自己紹介もせぬまま廊下をすたすたと歩き始めてしまった。方向は別館の方だ。確かに人は少なそうではあるが。
 思わぬ急展開に僕は思考をめぐらすが、彼女の目的が今ひとつ分からない。まさか、初対面で『告白』ってことは無いとは思うけれど。
 それはまあ、一目惚れという可能性だってゼロではないだろうが……。
 昨日の自分のことを思い出すと、説得力が急速になくなってきた。
 
 「はじめまして、1年2組の琴羽野彩です。実は相談したいことがありまして……」
 「相談?」
 「あ、はい。私が困っているのを、勝田くんが『すごい頭が切れる奴がいるんだ』って紹介してくれたので」
 あぁ、なるほど、一応腑には落ちた。けれど、勝田くんもなかなかプレッシャーのかかる紹介をしてくれるじゃないか……。
 琴羽野さんは、制服の胸ポケットから四つ折の紙を取り出して、それを広げて見せてくれた。
 (なになに……?)

 ――天王山、歩数、戦場の下――

 「数字はたぶん7桁だと思うんです。シリンダーが7つだから……」
 シリンダー? 一種の暗号だろうか。
 琴羽野さんが順を追って説明してくれた。
 先日、おじいさんが肝不全で亡くなり、遺品に金庫が見つかったこと。
 金庫は施錠された状態だったが、おじいさん個人のものであり、家族の誰もその暗証番号を知らなかったこと。
 金庫の脇にこの四つ折の紙が貼り付けられていたこと。
 物理的にバーナーなどで金庫を壊すこともできるそうだが、おばあさんとしては『金庫もおじいさんの大事な遺品の一つだ』と主張して物理破壊に難色を示していること。
 「おじいちゃん、入院は絶対しない、乾布摩擦と漢方で治すんだって言って聞かなくて……。でも、大好きなお酒もやめられなくて、だんだん目とか皮膚も黄色くなっていっちゃって、最後は……ぅぐっ、うっ」。
 最期を思い出してしまったのか、突然泣き出しそうになる琴羽野さん。
 って、こんなところを誰かに見られたら、絶対にものすごい尾鰭のついた噂話を作られてしまう!
 僕は慌てて、話を元に戻そうとした。
 「あ、えーと。で、何か番号を試してみたりはしたの?」
 「ご、ごめんね。お父さんは、明智光秀羽柴秀吉が戦った山崎の戦いのことだろうっていうんだけど。
  1582年6月13日で1582613では開かなかったんです。
  旧暦じゃないのかもと思って、7月2日にした1582072とか1582702もだめで……」
 「うーん……」
 僕は腕組みをして廊下の天井をぼんやりと見つめながら考えてみる。いきなり、他人の家の7桁の数字と言われても、難易度が高すぎだ。
 「難しいですよね……? あの、無理ならいいんです」
 「いやっ、もう少し時間が欲しいかなって」
 「あっ。そ、そうですよね……。」
 正直なところ、まったく勝算はなかった。けれど、見たところ積極的なタイプでなさそうな琴羽野が、さっきまで見ず知らずだった僕に相談をするくらいには大事なことなのだ。
 すぐに白旗を揚げるのは失礼だと思ったのだ。

 さて、5時間目とホームルームも終え、放課後。部活の時間に突入である。
 僕は、盤と駒を教室に運び込み、待った。が、なかなか来ない。
 (昨日の、口から出まかせってことはないよな。こっちは、仮入部までしたんだけど)
 なんだか落ち着かない。あれ、デートの待ち合わせってこんな気持ちなんだろうか。世の中の男女はこんな苦しさをしながら、恋愛しているものなのか……?
 僕の心が微振動していると、
 「あ、ちゃんと来てる」
 相変わらず無愛想な表情だったが、約束どおり美月は今日も現れた。しかし、昨日コミュニケーションの機会があったせいか、声や態度が微妙に親近感を含んでいるような気がした。あくまで僕目線でですけど。
 「約束だったからね」
 あくまで、表情は「しょうがないから来たよ、本当はすぐにでも軽音楽部へ行きたいんだ」という演出をしてみるが、内心は勿論まんざらでもない。
 美月は「じゃ、よろしく」と目の前の椅子に腰を落とした。
 「じゃあ、今日はルールを説明するよ」
 今日はテンポ良く行きたいところだ。あの面倒な顧問がやってくるまでに、ルール説明を済ませ、さらにはうまいこと美月の携帯端末の番号など、何らかのコネクションキープ確立まで持ち込む。
 僕の脳は本日、フル回転で頑張らなくてはならない。

 ルール

 A:交互に指す。パスは無し。二連続で指すのはダメ(反則)
 B:自分から王手にかかりにいっちゃダメ(反則)
 C:相手の陣地(歩のライン)まで進んだら『成り駒』になることもできる。
   ただし、持ち駒の場合は打った瞬間には『成り駒』にはなれない。
 D:動ける場所のない駒を作っちゃダメ(反則)
 E:二歩…縦のラインに自分の歩が二つ存在してはダメ(反則)
 F:打ち歩詰め…持ち駒の歩を打ってトドメをさすのはダメ(反則)

 G:千日手…同じ局面が4回現れたら(引き分け、指し直しの場合は先手後手入れ替え)
 H:王手がかかってる状況での千日手は、王手を掛けている側が負け。
 I:持将棋…相入玉などで王を詰めることで勝負を決められそうにない場合、点数計算で勝敗決める
   →飛車・角は5点、王以外の駒は1点として、24点未満の方は負け。両者24点以上なら引き分け。

 黒板にざっとルールを書き連ねていった。昨日の夜、少し予習をしておいたので、かなり簡潔に書けたと思うが。
 「AとBはなんとなく分かるからいいよね。CとDは昨日、駒の種類と動かし方やったときに少し触れたと思う」
 「うん」
 「EとFは、実際に場面を見れば一瞬で理解できると思う。」
 「うん」
 「GとHはちょっと珍しいケースなんだけど、たとえばこんな風に、自分のほうは絶体絶命で、相手を詰めないと負けになってしまうケースがあったとする」

図_千日手(1)_詰めないと負けちゃうから王手だ!

図_千日手(1)_詰めないと負けちゃうから王手だ!

図_千日手(2)_やだ!_逃げる!

図_千日手(2)_やだ!_逃げる!

図_千日手(3)_王手だ!

図_千日手(3)_王手だ!

図_千日手(4)_逃げる!

図_千日手(4)_逃げる!

図_千日手(5)_王手!_あれデジャブ?

図_千日手(5)_王手!_あれデジャブ?

 「お互いに、ベストな手を指そうとして結果として同じ局面が繰り返されるケースがあって。こういうのが千日手っていうんだ。特に、この場合は王手をかけちゃってるからHのケースで先手の負けになる」
 「攻めてるのに負け扱いになるわけ?」
 (言われてみれば、攻めているのに負けになるなんて結構不思議なルールだよな)
 昨日の初手9七角や桂馬の動きのくだりも思い出し、「そういうものだ」と覚えてしまうとなかなか疑問を持つ機会がなくなってしまう一例だなと改めて感じる。
 「Iのルールは変わってるね。急に数値が出てくる」
 「数値?」
 「要するに、駒がお金みたいになってるわけでしょ?」
 「そうだね」
 お金、か。
 将棋をはじめた頃は、駒の価値をイメージするために、歩は1円、香は5円、桂は10円……と父から教わったものだ。不意にそれを思い出した。

 「なんかさ、この板って味気ないよね。少しガタガタするし」
 黒板の撮影を終えた美月は手元にあった将棋盤を指先でぐいぐい押してそんなことをいう。
 「それは下の机がガタガタしてるからだよ。和室と脚付き盤があればね……」
 和室はおそらく、泉西先生の言うように茶道部か華道部あたりが優先的に使っているだろうし、学校の備品で脚付き盤があるとは思えない。
 「ケーヤの家には脚付いてるのあるの?」
 「そりゃもう」
 先祖代々、男系はみな将棋が好きだったが、僕はとりわけ棋力が高かったようだ。僕が初段をとった祝いに奮発して両親が買ってくれた脚付き盤がある。ただ、今は諸事情によりウォーキングクローゼの片隅に蹲っている状態だ。
 「へぇ。携帯カメラで撮ってきてよ」
 何がそんなに気になったのか、美月はそんなお願いをしてきた。取り出すのが少し大変だろうなとは思ったが、そのくらいであれば容易い。二つ返事で引き受ける。
 「さて、そろそろ帰るかな。また明日ね」
 「……あ、あぁ」
 美月はカバンを手にして、立ち上がる。その全身を改めて見ると、華奢ではあるものの肢体も整っていた。体育の授業で見せた動きは見間違いではなかったか。
 一瞬、変な目で見ていると思われなかったかと気にするが、特に気づかなかったようで「じゃあね」と、何事もなかったように教室を出て行った。よかったよかった。
 「……いや、よくない!」
 今日こそはと思っていたのに、またしても連絡手段が確立できていないじゃないか。
 まあ、まだ火曜日。明日もここに来たとしてもまだ2日間残っているからまだセーフといえばセーフだ。
 一人きりになると、この部屋は急に静かになる。壁掛け時計を見ると、非常に中途半端な時間だ。今からじゃ、きっと軽音楽部はもう無理だろう。
 (今日は僕ももう帰るかな)
 家に帰って、琴羽野さんのおじいさんの暗号のことでも考えてみるか。となれば、行動は素早く。厄介な顧問がやってくる前に。
 僕は手早く盤と駒を片付けることにした。

 *****

 帰宅して、僕は弁当箱を夕飯の下ごしらえに勤しんでいる母に手渡した。母は僕の弁当箱の中に、麺のように細切りになったピーマンが残存しているのを確認すると、小さく舌打ちをしていた。
 なんだか、母の闘志に火をつけてしまったような気がして身震いがする。
 今日は随分しゃべったせいか、喉が渇く。冷蔵庫を開けると、クーラーポットが入っていたのでそれを取り出して茶色い液体をコップにカパカパあけた。
 ふと、暗号のことを思い出していた。

 ――天王山、歩数、戦場の下――

 ひらがなに変換したり、アルファベットに変換したりしてみるが、糸口になりそうなものではなかった。
 (区切るところが違うのか? 天王山、歩数、戦場は全部感じで7つある、それらの下……っていう可能性も)
 あ、そういえば、美月に脚付き盤をカメラで撮るって約束してたっけな。あれこれ考えながら、僕は茶色い液体を流し込む。と。
 舌と喉に激しい違和感。
 「げぇっ! なんだこの不味いの!」
 おそろしく不味い液体だった。てっきり、麦茶か何かだと思っていただけに、完全にノーマークで余計に不味く感じた。
 「あら。それ、昨日お父さんが自作した漢方ジュースよ。なんかセンブリとかサンシシとか入れてたみたいだけど」
 センブリって、よくテレビの罰ゲームとかでやってる不味い奴じゃないか! しかし、サンシシとはなんだ?
 「サンシシ?」
 「クチナシの実のことみたいよ。漢方だとそう呼ぶんだって言ってたわ」
 「サンシシねぇ」
 脳内の要注意食品リストのセンブリ項の隣に記しておくこととしよう……。

 自室に戻ると、ウォーキングクローゼットの中の隅にあった脚付き盤を引っ張り出そうとする。上に荷物を積み重ねていたせいで取り出すのに難儀した。
 久々に白光のもとに晒した盤は、正直なところ、悲惨な状態に見えた。
 所々に茶色いシミのような模様が浮かび、全体は飴色。黒色の升目も見えにくくなっていた。
 (それでも、もう……決めたことなんだ)
 うっすらと涙目になっていることに弁明するように、僕は写真を撮り始める。
 (絵本だって、ぬいぐるみだって、新しいことに出会うたびに手放してきたじゃないか。それと変わらないじゃないか)
 心の中の何かが決意の蓋を押し開けないよう、何度も自分に言い聞かせながら撮影を続ける。何度か試行錯誤するうち、一番まともに思える角度が見つかり無事撮影は完了した。
 (あれ? 裏側は要るかな……)
 脚付き盤の裏側も少し変わった趣向が凝らされている。明言はされていなかったが、結局欲しがられると、また後日この盤と向かい合わなければならないことが心配された。
 (……念のため、撮っておくか)
 フローリングを傷つけないよう、気を付けながら脚付き盤をひっくり返す。4つの脚が上を向き、〈血だまり〉が見えた。こうしてみると、生き物のようにも見える。
 撮影を終えて、部屋の中を元通りに戻すと一息つく。写真も無事撮れたので、明日の準備は万全だ。
 気持ちを切り替えていこう、と思った矢先。先ほどの裏返った脚付き盤がふいに思い出されて、同時に予期せぬ言葉たちが頭の中に〈跳躍(リープ)〉してきた。
 (あ……、これってもしかして……)

 

 小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(3/5)に続く

 

小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(1/5)

 *****

風に 花の匂いが混じる頃 あなたとの物語ははじまった

 *****

 

第一章 『月曜日』

 

 寒い冬を越えてやっと咲いた桜が、早くも散り始める4月上旬。
 季節は春、springである。springには〈跳躍〉といった意味もある。春は跳躍の季節。なるほど、なかなか的を射ている気もする。
 まだ慣れない教室をぐるりと見渡せば、みな一様に機体とファン……じゃなくて、期待と不安をみなぎらせているように見える。
 義務教育だった中学校から良くも悪くも開放されたのだ。誰でも大なり小なりの心境の変化は訪れていることだろう。
 教室の教壇側の上部に据えつけられている壁掛け時計の針は、間もなく午後のホームルーム終了を示す時刻になろうかというところだ。
 担任に急用ができたとかで、教壇の上では急きょ代理となった副担任が先日高校生活を始めたばかりの僕達に向けて、「き、君達の未来は、む、無限の可能性に溢れているっ……」などと成分の半分が無意味で構成された激励を発信していた。
 (早く終わってくれ……)
 それは、僕だけの感想ではない。周りを見渡してみると案の定、教室全体が『辟易した顔』のコピペを繰り返したような有様だった。
 いや、仮にこの教師が前職コメディアンの経歴を持っており、卓越した話術をもっていたとしても変わりはなかっただろう。僕達は、面白い話や有益な話を期待しているのではない。ホームルームの即刻終了、ただその一点のみを期待しているのだから。
 しきりに髪を撫でる者、脚を揺らす者、各々が『自身がストレスを感じた時にするしぐさを披露するタイム』を始めたようで教室の雰囲気も次第に重苦しさを増して行く。
 奇声とともにこの教師に襲い掛かる者が現れやしないかと、何故か僕がそんな心配をしかけたとき、
 「……それでは、あー、今日はこれでおしまいに、……とします。また、あした」
 副担任の締めの挨拶とほぼ同時にキンコンカンコン、とチャイムが鳴りはじめ、安堵する。
 いや、安堵している場合ではないんだ。
 安堵さえもショートカットした鋭敏な生徒達は、予めまとめておいた荷物を手早く掴むと、蜘蛛の子を散らすように、勢い良く教室を飛び出していった。
 僕も、流れに乗り遅れないよう、せわしなく教室を飛び出した。
 廊下に出ると、早くも人の群れ。7つあるどこの一年生の教室も似たような状況だったようだ。
 (しかしこれは、想像してたより、移動が難しそう……だ……)
 第三者的に見れば、この高校にバイオハザードでも起きたのかと思われるほどの混乱であるが、ここ大矢高校においては毎年繰り返される当たり前の光景らしい。受験生のみならず、他校でさえ有名になっている現象のため、ここで戸惑っているような奴は『他国のスパイ』か『地球外生命体』として生徒会に尋問されるという噂もある。
 と、多少大げさに言ってみたところで、その正体はなんと言うことはない。単に『部活動の仮入部期間スタート』なのである。それ以上でも以下でもない。普通は。
 しかし、大矢高校での部活動というのはただのお遊びや時間つぶしではない。時として、高校生活だけでなく、後の人生にまで大きな影響を与えうる重要な位置づけと認識されている。その理由は大きく3つある。
 1つめ。高校近辺にめぼしい娯楽施設や繁華街もないため、楽しみと言えば部活動に打ち込むくらいしかない。
 2つめ。高校側も部活動に対して、比較的多額の予算を割り当てており、施設も備品もそこそこ充実している。そのためか、部活のレベルが全国的に高く、各分野での有名人をそこそこ輩出している。必然、各界からは常にウォッチされており、その道に将来進もうと野望を持つ高校生にとっては大きなキャリアとなる。
 3つめ。部活を通じたカップル成立が非常に多い。多感な年頃の男女にとっては、これも重要だろう。場合によっては一番魅力的に映るかもしれない。
 (しかし、網諾寺の初詣でもこんな混雑しないぞ……!)
 まだ、校舎の構造を完全に把握していない新入生に加え、新入生の勧誘に必死になる上級生とが入り混じった結果、校舎内は複雑な攪拌運動の場と化している。なお、教師達はその光景を〈神の見えざる泡立て器〉と名付け、のんびりと教務室から茶をすすりながら観察しているらしい。なんとも他人事過ぎる話だが。
 本来の部活動に支障がでないように、仮入部は人数制限を設けているところが多い。シビアな世界なのだ。
 僕が狙っているのは〈軽音楽部〉。例年、人気ランキング5位には入る競争率の高い部である。部室は、別館最上階の一番端にある音楽室だ。僕の一組は一年の教室の中では一番音楽室から遠いロケーションにある。なんと、不遇で、長い道のりだろう。三蔵法師も真っ青だ。しかし、そんな荒行もバラ色の高校生活を思えばなんてことはない。非常に甘すぎる見通しかもしれないが、音楽をやる男はモテる!はずなんだ。
 既に、春休みのうちに中古のエレキギターを購入して、練習も始めている。スタートダッシュに向けての視界は良好だ。「ああ、勉強もこのぐらい真面目に予習しておいてくれればよかったのに!」と成人した未来の自分からのメッセージがタイムリーぷして聞こえてきそうだが、今はサイレントモードまたは着信拒否だ。
 明るい未来をモチベーションとして、僕は人ごみを掻き分けて進む。うん、段々慣れてきたようだ。別館への渡り廊下が間近に迫ってきた。とそのとき――、
 「おーい! 瀬田っ!」
 ざわめく廊下で、不意に名前を呼ばれて僕は思わず立ち止まる。人をかき分けかき分け、一際背の高い男が近づいてくるのが見えた。
 あれは……。同じ美節中出身の勝田ダイ(かつただい)くんだ。勝田くんとは、確か中学3年の時に一緒のクラスだったが、それほど親密だったわけというほどでもない。
 彼はいわゆるスポーツ好きなアウトドア派、インドア派の僕とは少し毛色が違うのだ。
 そして、なぜ、よりによってこのタイミングで? 僕は訝りながらも、さすがに失礼になるので、表情にそれを浮かべないようにして彼を待つ。
 「なんか、久し振り……だよな。ちょっと時間いいか?」
 「え……。あ、あー、うん」
 久し振り……だっただろうか。冷静に考えて、卒業式のあと春休みを挟んだだけだけど……。これが親父がよく口にしているシャコウジレイと言うヤツか? まあ、会話をしたかどうかで考えれば、確かに久し振りではあるなと僕は思うことにした。
 「ちょっと、そこ入ろう」
 とりあえず、この戦場のような廊下での立ち話は危険だということで、僕達は一旦近くの教室に入ることにした。
 教室のドアを閉めると、外の喧騒は一段階小さくなった。あの狂騒の中に後でまた戻るのかと思うと、身が引き締まる想いだ。
 「あれ? 随分と印象変わったなあ。まあ、今の方がカッコいいぜ」
 「あ、ありがとう。ところで、何か用事が?」
 「そうそう。悪いんだが、ちょっと協力してほしいことがあってさ……」
 制服のポケットから携帯端末を取り出して、勝田くんはストレートにそう告げる。
 せわしなく操作をし始めて、やがて「これなんだが」と携帯端末の画面をこちらに差し出してきた。
 なんだろうと思い、覗き込んだ僕は、「……あっ!」思わず声をあげていた。
 見間違いようもなく、それは将棋の初形――まだどちらも指していない初期状態だった。

図_本将棋初形

図_本将棋初形

 

 それは、僕にとっては一番見たくない画像だった。それをきっかけとして、頭の中に様々な映像や音声が流れ込んでくる。
 五感が乱れて、両目がうまく像をむすぶことができない。
 「……ーい。おーい、瀬田~?」
 勝田くんがやや心配そうな面持ちでこちらを伺っていた。
 「ん……? あ……あぁ、ごめんごめん」
 どうやら、しばらくの間フリーズしてしまっていたようだ。
 僕が将棋を止めてしまったことは、友達には言っていない。新聞の将棋大会の記事に、僕の名前が一切出なくなったことに気づくほどの『僕マニア』は両親くらいなものだ。だから、勝田くんが「将棋のことなら瀬田に聞こう」と発想したことは自然だし、僕がそれを無碍にするのは彼に失礼だ。だからひとまず、今日のところは彼の相談に耳を傾けることにした。
 「これは……。初形だね」
 「オヤジが経営会議で新規開拓の妙案を出したらしいんだが、それに対するジジイからの返事がこの図だった……らしいんだが」
 確か、勝田くんの家は総合商社で今は勝田くんの父親が社長を務めていたはずだ。しかし、初代社長であり、現会長のお爺さんが今も実質的な決定権を持っているとかいないとか。
 お爺さんは度々この手の謎かけをして、周囲の人々を試しているらしい。あるいは娯楽の一種なのかもしれない。
 「この図以外には文字も何もなかったそうだ。瀬田って、将棋得意だっただろ? だから、何かピンとくるものがないかなと思ってさ」
 「うーん……」
 正直なところ、これは将棋の実力とかそういったレベルの問題ではない気がしている。それなりに難解な局面だとか、エピソードのある有名な勝負の局面だとかならばまだ推理の取り掛かりがありそうなのだが。
 (初期状態……はじまっていない、とか最初の手を動かせないとか?)
 少し考えてみたが、すぐにはいい答えが出てくるような感覚がなかった。なんというか、直感的に、もっと別の解がありそうな気がするのだ。
 「期限とか、そういうのは?」
 「いや……。まあ、今日明日くらいに出てくればありがたいっちゃありがたいんだが。まあ、一方的な相談だし、何かひらめいたらで全然構わない」
 「うーん。ちょっと考えてはみるけど……」
 「悪いな。じゃあ、ちょっと俺は部活の方に行くんで。何か思いついたら、携帯のほうに連絡よろしく!」
 勝田くんは白い歯をニッと出して、教室を去っていった。なんと爽やかな笑顔だろう。僕も彼のようにイケメンだったら、労せずに女の子にもてるんだろうけどなぁ。
 「って、わああぁぁあ! もうこんな時間か!」
 教室の壁掛け時計を見ると、既にホームルーム終了から20分が経過していた。この出遅れは痛い、痛すぎる……。
 すっかり人もまばらになっている廊下を急ぎ足で駆け抜け、音楽室に近づくが
 ドアには無慈悲にも「本日満員御礼 またきてね~♪」という貼り紙が貼られているではないか。
 (……まあ、まだあと4日ある、し)
 仮入部期間は月曜日から金曜日までの5日間ある。初日はどのみち大混雑で、諸先輩方もてんやわんやで要領が上手くつかめていないことだろう。
 などと都合のいいことを頭に思い浮かべようとしたが、『隣の芝生』というか『すっぱいブドウ』というか、負け惜しみ全開なのは、自分が一番良くわかってる。
 仕方ないので、他の文化部の様子でも見てまわることにした。どうせ、本入部をしてしまったら、その後は見学や体験などをする機会自体がなくなるし、話のモノダネにもなりそうだ。料理研究部とかなら、お菓子をもらえたりするかもしれない。
 廊下の窓から、ふとグラウンドを見下ろすと、勝田くんがジャージ姿で準備運動をしているのが見えた。あの集団は、恐らく陸上部だろう。
 (あれだけ出遅れても参加できるとは羨ましいもんだ)
 陸上部は道具やスペースでそれほど制限を受けないためか、仮入部の定員オーバーというものが基本的に無いらしい。
 陸上部のほかにも、サッカー部や野球部など仮入部した一年生が見渡せた。さすがに、みな地道な筋力トレーニングや声出しなどの『下積み』をさせられているが、憧れの部活に参加している、という状況に目を輝かせている。(勿論、夜のネコのような輝き方はではない)
 さて、ずっと呆けているわけにはいかない。人生は短いのだ。こういう時間はもったいない。僕は廊下を歩き、順々に教室を覗いていった。書道部、演劇部、英語部……。物珍しさは感じるものの、今日一日を費やしてみようという気持ちまで起きるものはなかった。そして、とうとう教室の終端までたどり着く。
 (なんだ、ここは何部だ?)
 教室のドアは開け放たれているが、中からは人の気配が全くしない。恐る恐る覗いてみるが、やはり予想通り人は一人もいなかった。
 (未使用の部室か……? いや、大矢高校は部室が与えられない第二部の部活も多々あるって聞いたことがあるし。たまたま留守? 便利なシモベ……じゃなくてかわいい後輩を獲得するという長重要期間の初日に?)
 気になって、ついふらっと部室の中に足を踏み入れた。広さは教室の半分ほどあるものの、備品はほとんどない。部屋の中央に会議室にあるような長机とパイプ椅子が数脚配置されている。
 部室の中央まで進んだところで、壁に何かが斜めに垂れ下がっているのに気づいた。
 「……なんだか、今日はとってもツイてるな」
 僕が目にしたのは、油性マジックで〈将棋部〉と殴り書きにされた画用紙だった。しかも、ひどい。あまりにもひどい。とても部員勧誘に力を入れているとは言い難いぞんざいな代物だ。
 他の部ではとっくに活動を始めている時間なのに、入部希望の新入生おろか、先輩部員や顧問もいないこの有様。もしかしたら、やっているように見せかけてひっそりと閉店している田舎のロードサイドのラーメン屋のように、既に数年前に廃部してそのまま現在に至っている可能性もあり得る。
 (まあ、そんなもんか。今どき将棋を指すヤツなんてどうかしてる)
 今からめぼしい部活が見つかったとしても時間が微妙だ。かといって、部活に打ち込んでいる一年生がいる中でこのまま帰宅するのは気持ちが進まない。とりあえず、将棋部の関係者が来るまで、できるなら下校時間まではここで時間を潰させてもらうことにした。
 (そうと決まったら……)
 この暑い部屋をどうにかしよう。
 4月上旬とはいえ、今日は日差しがとても強い。日当たりの良い部屋のようで、かつ、窓は全て閉まっているためか、室内はけっこう暑かった。窓際に歩み寄って僕は順々に窓を開けていった。クレセント錠は特に掛かっていなかったので、全ての窓をあっという間に全開にできた。
 今日はそれなりに風があるようで、しばらくすると徐々に部屋の中の熱気が逃げていった。
 (涼しくなったのはいいけど、風が強くて目にホコリが入りそうだな……)
 グラウンド側ではなく、中庭側の部室なので砂はあまり心配なさそうだけど、強い風はあまり好ましくない。
 ふと部屋の隅の方に眼をやると、金属製のロッカーが鎮座しているのに気付く。
 もしやと思い扉を開くと、中には薄い盤と木の駒箱が8組ずつ並べて積まれてあった。
 飴色をした木の盤を一つ抜き取って、観察してみる。決して高級なものではなさそうだが、高校の部活動の備品としてみれば十分で、かなり使い込まれていた感じを受けた。
 駒箱も観察してみることにした。蓋を開けると、中身は木製の駒だった。こちらもかなり年季が入っている代物だ。
 学校の部活動なら、ベニヤ板に桝目をマジックで書いた簡素な盤や、安価なプラスチック駒でも十分だと思うのだが、思った以上に備品がしっかりしたことに驚かされた。さすがそこは大矢高校というべきだろう……。
 (昔は、それなりに賑わっていたんだろうな……)
 手にしていた盤と駒を一組、なんとなしに長机の上に広げてみる。そして、
 
 ――ピシィッッッ
 
 僕は、無意識のうちに駒の中から〈王将〉を選び出し、盤に打ち付けていた。
 楽器とは異質の、それでいて妙に響き渡る澄んだ音。手に伝わってくる反動の感触。どれもずいぶんと久し振りのものだ。
 ただ、相変わらずいい音だとは思ったものの、また将棋をしたいという気持ちは起こらなかった。
 今日ここに寄ったのは、ただの気まぐれで、偶然の重なった結果にすぎないのだ。明日からは、僕は当初の予定通り、軽音楽部の仮入部員になり、音楽に高校時代を捧げることになるだろう。
 などと考えていたのに、指は条件反射のように勝手に駒を摘んで初形を並べきっていた。自分の中にすっかり染み付いていた将棋に呆れを通り越して驚嘆した。
 と、そのとき。教室の脇の廊下を歩く人の気配を感じた。
 (もしや、関係者?)
 だとしたら面倒な話だ。備品を勝手に引っ張り出したりしている以上、将棋に興味がないなどと言っても説得力がなさそうだ。
 少なくとも、初形を並べられる知識はあることが明白だし、流れによってはそのまま一局……などとなりかねない。
 僕の意思は実に堅く、将棋部に入る意志などこれっぽっちもないわけだが、情や賄賂でごり押しされ、仮入部させられるような事態になったら一大事だ。僕のバラ色の高校生活が一気に、退廃と虚無へと変わり果ててしまう。
 「……いるの誰?」
 僕に投げ掛けられた声は、大人の声でも、男の声でもなかった。それに応じる間もなく、声の主が部屋の中に入ってきた。
 (……!?)
 僕のボキャブラリーが貧困であるという言い訳をしつつ、一言で表すならば『美少女』というやつだった。
 背丈は、男子の中では低い方の僕よりも、さらに一回り低いくらい。さらりとしたストレートの髪をポニーテールにしている。
 顔立ちや容姿の整いかたは間違いなく平均以上で、テレビや雑誌に出ている芸能人が大矢高校の制服を着て目の前に現れたといわれても不思議に思わないレベルだ。
 だが一点……その優位を台無しにしかねない程に愛想がなかった。特に、意図的に目を細めたり睨んだりはしていないようだが。これでは惚れるより前に逃げる男の方が多そうだ。
 ただし、僕は不思議とネガティブなイメージを感じなかった。こういうとき、平均以上に色恋沙汰に縁のない僕はあたふたしたり、自ら接点を閉ざしてしまったりしてきたのだがこの瞬間は彼女の視線をしっかりと受け止めきれていた。
 「将棋部の人?」
 投げ掛けられた質問に、ハッとなる。想定外の出来事にすっかり〈長考〉してしまっていたようだ。
 この部屋には、今は僕しかいない。当然、僕に対してされた質問だ。
 「あー、えーと……?」
 視線は平気だったものの、質問については参った。どう言ったものだろう。もちろん部員ではないし、仮入部員になるつもりもない、名実ともに将棋部とは全く関係のない立場だ。
 しかしけれども、「ならばなんでここにいるのか」と聞かれても答えに詰まってしまう。それだけではない。質問の意図からするに、将棋部と関係がない生徒には用はないと判断されるだろう。
 そして、僕の理性は彼女ともう少しだけでいいから何か話をし続けてみたいという欲求を訴えて続けている。
 ぐるぐると再び〈長考〉をしている僕に、予期しない考えが頭に跳び込んできた。そして、気づいたときには僕はそれを言い終えてしまっていた。
 「あ……のさ、そこの窓を閉めてったのはきみ?」
 その後、訪れる静寂。僕がビシッと窓の一つを指差した直後のまま時間だけが流れていく。
 「……っ」
 言ってから後悔する。何で、もっと気の利いた台詞を言うことができないんだろうか……。だから『生存年数=彼女いない歴』の状態絶賛更新中なのだ。
 案の定、彼女は無言でこちらの様子を伺っている。心なしか、視線も鋭さを増したように感じる。変なことをいう奴だと怪しまれただろうか。しかし、事態は思わぬ方向へ転がった。
 「……何でそう考えたの? 教えて」
 特段、責めるような口調ではなかった。そのことにひとまず安堵する。むしろ、僕の言葉に興味を持っているような反応にも思えた。
 ただ、困ったことがある。僕自身が、何でそう考えたのか、それが分からないからだ。分からないけど、頭に跳び込んできたのだ。
 昔からこういうことはよくあった。難しい問題に直面した時など、必ずではないけれど、時折妙なアイディアがふと浮かぶのだ。よく言えば、閃き、というやつかもしれない。僕はそれを勝手に〈跳躍(リープ)〉と呼んでいた。
 そう正直に説明してもよかったかもしれない。しかし、運がいいことに視界の端に斜めに垂れ下がった画用紙が入ったのを機に、一気にその裏づけについての理屈が流れるように浮かんできた。
 「ちょっと待って、分かったかもしれない」
 「分かったかも? って、今?」
 「まあまあ」
 僕は〈将棋部〉と書かれた画用紙の手前まで進み、そのさらに高い部分をじっと観察する。すると、良く見るとそこにはテープの切れ端が壁に残っていた。やはり。
 「多分、この画用紙は元々はあの高さに張られていたんだ。それが、一旦落ちてしまっていた。
  君はそれを張りなおしたんだけど、背丈からして元の高さまでは届かないから結果的に左上だけで留めることになってしまった」
 とはいえ、椅子を使って背伸びをすれば貼れない高さではない。しかし、スカート姿の女子がわざわざそんな真似はしないだろう、と心の中で補足する。
 「画用紙が落ちた理由は、窓から入ってきた風の可能性が高い。元々2点で留まっていたものが1点だけに減ったわけだから、風が吹き込み続けたらまた落ちる可能性は高い。それで窓を閉めたんだ。クレセント錠まで閉めなかったのは、また戻ってくるつもりだったからか部室を開けた人が最終的に下校時間に施錠しにくると考えたから、かな?」
 言い終えた自分の推測を思い返したが、矛盾やこじつけすぎた論理展開は無かったように思える。
 「……」
 彼女は腕を組んで少し考え混んでいる。推測が合っているかどうかは分からなかったが、僕にとってはもうどうでもよいことだ。
 「まぁいいや。ところでさっきの答えは?」
 「えーと、なんだっけ?」
 「将棋部の人なの? 違うの?」
 「うぅ……」
 そういえば、元はそういう話だった。しかし、うまい理由の方は浮かびそうに無かったし、嘘で塗り固めて最後に破綻するよりはと思い、僕は高校以前の過去部分は除いて正直に話すことにした。
 「――というわけで、目当ての軽音楽部が運悪く定員オーバーだったから、せっかくだと思ってぶらぶらと部活見学をしていたんだ。そうしたら、ここが空き部屋みたいになっていたから気まぐれで入って……」
 「気まぐれで盤と駒を出したりするんだ?」
 指差した先には、僕が並べていた駒があった。
 そういえば、彼女、僕が来る前に部屋を訪れていたんだった。
 「結局、部員であろうと無かろうとどっちでも構わないんだけど」
 一体、何を言い出すんだろう?
 いきなり「あたしと付き合ってくれない?」さすがにそれは都合よすぎの早すぎか……。そんな少年漫画のような奇跡的な展開は一切無いことをこの瀬田桂夜自身が一番自覚している。
 不安半分、期待半分でドキドキしていたら。 

 「将棋のルールくらいは知ってるんだよね?」
 (――!)
 この言葉には正直不意を突かれ、そして、絶句してしまった。道を歩いていたプロ野球選手が、「バットの握り方って知ってますか?」と言われたらこんな気持ちになるのだろうか。いくら、僕が元全国3位の実力の持ち主と彼女が知らないとしても、あんまりな物言いである。僕は、どんな表情を浮かべていただろう。
 結局、「あ、ああ一応は」というなんとも即妙当意でない返答を返してしまい、我ながら呆れてしまう。ここで、「こう見えても、実は元全国3位なんだけどね」とかさらっと言えていたら、「わぁ、凄いじゃん!」となって、少しお近づきになるきっかけにできたかもしれないというのに!
 彼女が何を求めているかは知らないが、凡人を求めている雰囲気はない。自分の数少ないアピールポイントを活かして、この子と一気に会話をつなげられるチャンスだったかもしれないのに。
 こういう積み重ねが、彼女いない歴=年齢の最大要因なんだろう、と頭の中が物凄い勢いで負のスパイラルに入りかける。
 「じゃあ、あたしに将棋教えてよ」
 「え!?」
 「だから、しばらくあたしに色々教えて欲しいんだけど」
 「え!?」
 「きみ、驚くの好きだね……」
 急展開、急転直下、青天の霹靂としか言いようがない。彼女がどこまでを求めているかは分からないが、数分で話尽くせるほど将棋は浅いものでもない。必然的に、しばらくは二人で話ができる時間が得られてことになるわけだ。
 頭の中に、和洋折衷の様々な祝詞がこだましている。さっきまでの暗い自分よ、お帰りはそこのドアからどうぞっ。
 僕の反応がなかなか帰ってこないので、彼女は立ち上がり、「イヤなら別に、他の人探すからいいよ。顧問のセンセもできるのかな……」などとてきぱきとアクションを起こそうとする。
 僕は、慌てて「そんなことないよ。任せといて。昔、けっこう本格的にやってた時期もあるし」と言って、引き止める。ちゃっかりと今度はアピールすることもできた。
 「そうなの? じゃ、よろしく」
 そう言って、彼女は再び椅子に腰を下ろした。
 
 *****
 
 「さて、教えるっていっても、色々あるんだけど?」
 教壇に立ち、黒板にさらさらと字を書きながら僕は背後に話しかける。
 
 A:駒の種類、駒の動かし方。
 B:ルール(成り、持ち駒、反則など)
 C:手筋、戦法、囲いなど

 「戦法の『戦』と『囲い』、の書き順が違うね」
 (うっ……結構細かそうな子だ)
 今はただ、ラポール形成に集中すべきだ。
 「AからCでいうと、どこまで分かる?」
 「全部知らないけど」
 (……左様ですか)
 「でも、Cって要するに応用テクでしょ? AとBが分かれば十分かな」
 年頃の女の子が、駒の動かし方も分からない状態から、将棋を覚えたいという動機が非常に気になるが、藪蛇になっても悔やまれる。
 「じゃあ、とりあえずAのところからやろうか」愚直に講座を続けることにした。
 

表_駒の種類

表_駒の種類

 

図_歩の動き

図_歩の動き

図_香の動き

図_香の動き

図_桂の動き

図_桂の動き

図_銀の動き

図_銀の動き

 

図_金の動き

図_金の動き

図_角の動き

図_角の動き

図_馬の動き

図_馬の動き

図_飛の動き

図_飛の動き

図_龍の動き

図_龍の動き

 

 「っと、こんな感じかな。ところで……」
 黒板に文字と図を書きながら、〈桂〉書いているときに、まだ互いに自己紹介をしていないことに気がついた。
 「自己紹介、まだだったよね。ぼ……俺は瀬田桂夜」
 さらさらと黒板の空いているスペースに漢字を書く。
 「あ、ケイってそう書くんだ。なんだかミラクルだね」
 ミラクルと言われ、少し救われた気がした。将棋から離れていた期間、僕は名前がイヤでイヤでしょうがなかった。
 まず、名前に〈桂〉という駒の名前が含まれている。あらゆるものに名前を書く際にそれを見なければならないのは苦痛だった。
 英単語の勉強をしていて、〈桂〉(K)と夜(NIGHT)で騎士(KNIGHT)じゃないか、うわ、カッコいいと思ったのはつかの間。
 騎士(キシ)は棋士(キシ)と同音であることに気づき、随分と凹んだものだ。
 「あたしはオリガミツキ。機織のオリ、年賀状のガ、美しい月でミツキ。苗字は濁点入っていて好きじゃないから、美月って呼んで」
 「あ……えと、俺も似たような感じだから、桂夜で」
 自らの歴史を振り返っても、別に苗字が嫌いだったことはない。しかし、歴史とは都合よく塗り替えられるものなのだ。気になる女の子と名前で呼び合う、これは幸福の極みとしか言いようがない。
 美月は「こうした方が覚えやすいから」と言って携帯端末を構えると、黒板を撮影しようとする。僕は気を遣って黒板から離れようとしたが、
 「ついでに覚えるから」と『瀬田桂夜』の隣に立たされてフレームインさせられてしまう。嬉しいような、恥ずかしいような。
 「じゃあ、実際に最初の状態から動かしてみよう。勝ち負けは二の次で」
 「はいよ」
 美月は左の方にある角行に手を伸ばす。
 (まさか!?)
 そして、角行を持ち上げると、すぐ左上の歩兵の上に「ガチッ」と重ねたではないか。
 初手、9七角――。
 僕は思わず呼吸をするのを数秒忘れた、口をぽかんと開けたままフリーズしてしまった。
 多分、将棋を指し慣れた人たちであれば、一様にみな同じ表情を浮かべるのではないだろうか。もし、将棋ファンを100人唖然とさせることができたら100万円!といった企画があれば、是非使いたいものだ。
 「ねえ、今度はそっちの番でしょ。固まってないで、早くしてよ」
 美月は全く自分の手に不備があるとは思っていないようだ。
 「えーとさ、自分の駒の上に、自分の駒を重ねるのは無しなんだ」
 僕は、初心者の心を傷つけないように言葉を選びながらそのことを伝えようとする。
 「でも、さっきそんな説明してないよね?」
 痛いところを突かれた。確かに、そういう説明は全く言及していなかったが。
 「すまん。確かに言ってはいなかったよ。厳密に言うと、他の駒があるときは、こういう風になる。

図_香の動き(改)

図_香の動き(改)

図_桂の動き(改)

図_桂の動き(改)

図_角の動き(改)

図_角の動き(改)

図_馬の動き(改)

図_馬の動き(改)

図_飛の動き(改)

図_飛の動き(改)

図_龍の動き(改)

図_龍の動き(改)


 「相手の駒はどかしてそこに行くことはできるけど、自分の駒の場合はダメってことでOK?」
 「そういうこと」
 「この桂馬は? 前塞がってても飛び越えられるの?」
 「そうそう。香車も飛車も角も。龍や馬という駒でさえ、間に障害物があるとその先に突き進むことはできないんだけど、
   桂だけはそれがないんだ。こんな風に壁があってもピョンって越えられるんだよ。
 「次元を越える駒ってことね」
 「えっ?」
 「ほら。跳び越えられるんだから、桂だけ動きが三次元」
 なるほど、言われてみれば確かに。他の駒は二次元的な動きなのに対して、桂馬の動きは特殊だ。
 物心付いたときからやっていて『そういうもの』がスタートだったためか、正直「そういう考え方もあるのか」と感心してしまった。
 結局、丁寧に説明を重ねたことで、この件に関してはなんとか納得してもらえたようだ。
 「じゃあ……」
 美月はしぶしぶ、飛車の上にある歩兵を手に取り、ひとつ前に進める。
 恐らく、先ほどの件で角行が少し嫌いになったのだろう、飛車の方ををひいきにするつもりらしい。非常に動機が不純ではあるが。
 (お、なかなか)
 なかなか筋がいい手だ。飛車は強力な駒だ。その駒を活用する上で、〈飛車〉の前にある歩を進めていく手は非常に効率が良いのだ。
 ここは褒めて伸ばしてやるところか、と思ってほめ言葉を考えていたのだが、「この桂ってやつも最初から使えないやつなのか……」などと呟いて桂馬の駒をぐりぐり押している。
 (使えない……ですか)
 ハハハッ。なんだか、自分を貶められているようで、僕、少しカチンときたぞ。
 
 山あり谷ありだったが、その後は順当に進んだ。美月はなかなか学習能力が高く、『成り駒』も含めて駒の動きをあっという間に覚えてしまった。
 相変わらず、表情は無愛想なままだったが、不満はないように見える。
 おさらいにもう一度初形からやろうか、それともルールに移ろうかと思案していると、ドアの方に人影が見えた。
 「おー!? 二人も集まったのかっ!」
 入ってきたのは……1組、つまり僕のクラスの担任だった。
 「あ、もしかして顧問だったんですか!?」
 「いっかっにっもっ」
 もしかして、と言ったのには訳がある。先生の服装だ。紺色の和服に身を包み、手許では扇子をパチパチと鳴らしている。いかにも、「将棋やろうぜ」といった風情だ。
 「扇子まで持ってる。それっぽい感じ……」
 女子に煽てられて気をよくしたのか、先生は「かーっかっかっ」と笑い、「常ー識だよ常識。顧問の扇子で、コモンセンス、なんてな!」などと訳の分からないことを言っている。この先生、とんだコメディアンじゃないか……。
 「将棋は、お強いんですか?」
 僕は思いきって尋ねてみた。繰り返しになるが、大矢高校は部活動に力を入れている。教師としての才能より、部活の顧問をこなせるかどうかが採用の決め手となる、という噂があるくらいだ。
 こんなにふざけておどけていたりするが、元アマチュア名人だとか、物凄い経歴の持ち主である可能性もあるのだ。
 「くく、将棋か……、やったことねぇな! より正確に言うなれば、駒を持ったことも……ねぇ!」
 「はい?」
 「いやあ、和服着るのが好きでさ。和風な部活の顧問になったら、放課後ずっと着ていられるだろう? 茶道部や華道部はさすがに荷が重そうだったから、将棋部を選んだわけさっ」
 そうか~、なるほど~。将棋部荒廃の一端は垣間見れた気がするぞ~。
 まあ、どうせ、一期一会。明日からは僕は軽音楽部に行くのだから、ここは軽く笑って聞き流すことにした。
 (む。一期一会……?)
 ふと考え込む。
 正直、将棋部に入る気は無い。顧問の登場で、その思いはむしろ炭化ジルコニウム程度まで堅くなったと言っていい。
 しかし、将棋部という接点を失うと、この美月との接点もなくなってしまうことに気づく。
 (それはそれで、もったいないよな……)
 ああでもない。こうでもない。将棋の次の一手を考えるように、頭の中で様々な手を読み、最良の解を探す。
 (いや、部活動じゃなくても学校で会えばいいだけじゃないか。連絡先、いや、まずは何組かだけでも分かれば……)
 しかし、「あ。もうこんな時間か。 あたし、ちょっと用事あるから。また明日ね」美月はカバンを肩に下げると、声を掛ける間もなく教室を出て行ってしまった。
 とりあえず、明日の過ごし方については決まってしまったようだ。まあ、仮にあしたも将棋部に来たとして、仮入部期間はまだ3日ある。十分だ。
 美月が出て行ったドアをボーっと眺めながら、そんなことを考えていた。すると、
 「少年っ!」
 「わぁ、なんです?」
 突然、両肩をわっしと掴まれて僕はびくんとなる。目の前には和服姿の顧問。そして。
 「汝、仮入部しちゃいなよ?」と迫ってきた。どこかの事務所社長か。
 「いやです」
 「なんでだよ。少年、将棋詳しそうじゃん」
 黒板の文字と、僕の顔を交互に扇子で指し示しながらそう言う。将棋が詳しいことは否定しないが、それと仮入部は別問題だ。
 「たまたまの、通りすがりの、事故だったんです。第一志望は軽音楽部なんで」
 「なーにー? けいおんだとぅ? あんな発泡スチロールみたいなところの何が良いんだ?」
 「別に、軽量とは関係ないです。あと、将棋部はいやです」
 「音楽なんて、授業でもやってんだろ。あとは通学路で鼻歌でもうたってりゃ、人生の定量分に達するだろうが」
 「音楽にもいろいろ種類があるんです。あと、将棋部はいやです」
 「どうしてもいやか?」
 「どうしてもいやです」
 僕の態度が頑なと見ると、顧問は「むむむ……」と唸って考え込んでしまった。
 そして、はっと何かを思いついたようで、ニヤリとしながらこう言ってきた。
 「よしっ、中間テストの現代国語の点をサービスしちゃる。採点は匙加減だからなぁ。はっはっは」
 「……なに、考えてるんすか! 校長に言いつけますよ!?」
 一瞬、甘い誘惑に乗りそうだったが、軽音楽部への情熱と良心の呵責とで思いとどまる。
 (さて、美月も帰ったし。面倒なことになる前に退散するか)
 僕は、使っていた駒を手際よく元の木箱に収めて、盤と共に元あった場所に戻す。
 横目でちらりと顧問を伺うと、「うああ、部員ゼロからの脱却があ……」とか「超便利なシモベができたと思ったのに……」と頭を抱えて苦悩している。
 カバンを手に取り、「じゃ、俺も帰りますんで」と小声で言って教室を後にしようとするが、先に進まない。はて、と思い振り返ると、顧問がむんずと僕の制服の裾を掴んでいるではないか。
 (まだ、何か取り引きを持ちかけてくるつもりなのか……?)僕が訝っていると、思わぬ方向から攻めてきた。
 「……じゃあ、明日はここは閉める。備品も使わせない」
 「えっ?」
 予想外の攻撃。少なくとも、そんなことをされたら美月との明日の約束が果たせないことは確かだ。
 (それは……やだ、けど)
 というか、そもそも将棋盤と駒は学校の備品であり、顧問の権限濫用ではないか。その点を重点的にアピールするが全く取り合おうとしない。それどころか、勝機ありと見て猛攻を仕掛けてきた。
 「ふっふっふっ。少年よ、あの娘に恋をしておろう? 仮入部くらい、減るもんじゃないし、むしろ、しといちゃいなよ!」
 「うぐっ……」
 「あの娘、かわいかったもんなー。あぁもったいないもったいない。ご縁も本日限りか……ふぅ」
 「っ……」
 「今日限り? やべ……。それ、顧問的にももったいなくね? お、おい、少年! どうしよう……あわわわ」
 「先生がパニくってどうするんすか!」
 仕方なく、僕はカバンの中からシャープペンシルを取り出し、教壇の上にあった仮入部届をさらさらと埋めていく。
 「……おい、偽名じゃなかろうな?」
 「さすがにひどい物言いですよ!」
 ともかく、この場は仮入部でも何でもして離れるのが良策と判断した。
 仮入部届を出さないと、本入部届を出すことはできない。しかし、仮入部届を出したからといって必ず本入部をしなければならないという決まりはない。
 顧問の要望は「仮入部をしてほしい」で僕の要望は「とにかく、明日もこの部屋と備品を使いたい」だ。冷静に考えたところ、両者の希望は両立可能だと気づいたのだ。
 僕が仮入部届を書いているのを満足そうに覗き込んでいる顧問。
 「ほほう。少年の名は瀬田桂夜というのか」
 僕は天を仰いだ。
 「先生、担任でしょ。生徒の顔くらい覚えといてくださいよ……」
 「バッキャローめ。名前なんて覚えられねーよ! 生徒から見たら担任は一人だけど、担任から見たら生徒は30人なんだ! 負け戦だろうよ。しかも、毎年毎年、慣れてきたころにシャッフルしやがって……! というか、未だに芥川龍之介太宰治の見分けがついてない俺さまに高度なテクを要求するな!」
 私立高校は個性的な教師が多いと聞いていたが、少し覚悟が足りなかったと思い知らされた。何故か自省をしていた僕に、顧問が謎の反撃をしてきた。
 「お前こそ、教師に向かって呼び捨てとは聞き捨てならないぞ!」
 「へ?」
 「初日のホームルームの時に自己紹介しただろうが。泉西潮成と!」
 (センセーショナリー? センセイシオナリ……?)
 記憶の糸を手繰り寄せれば、確かに指摘された通りの映像がよみがえる。紛らわしい名前である。センセイとだけ呼ぶと、泉西なのか先生なのか特定というわけだ。
 センセイセンセイと呼べば、一応は泉西先生と解釈できそうなので、これからはそのように意識することにした。
 「失礼しました、泉西先生」
 「ふっ、ダブル呼び捨てとは、良い度胸だなっ! これからも覚悟しておけい」
 あぁ、誰か。僕を助けてください……。

 *****

 さすがにダブル呼び捨ての件は、泉西先生のブラックユーモアだったらしい。書き上げた仮入部届を手渡すと嬉しそうに受け取り、備品の管理場所や教室の鍵のかけ方などを非常に簡潔に説明してくれた。
 そして、泉西先生は仮入部届をくるくる丸めると、舞うように、というか実際に舞いながら教室を出て行った。
 (よし、あの人のことはしばらく忘れよう)
 部活終了時刻まではまだ少し余裕がある。それならば、明日の計画を考えておこうと考えた。
 とりあえず、明日のインフラと機会については整ったが、明後日以降はグレーと言わざるを得ない。泉西先生がいつ気まぐれを起こすか分からないから、明日中に美月とは将棋以外の接点を作るようにしたいところだ。
 (携帯電話の番号とか? メールアドレスとか?)
 色恋沙汰の経験が皆無の自分には、どういう話の流れで聞き出せばいいか見当もつかない。当たって砕けろ、の精神が大事なのだろうか。しかし、砕けちゃいけないだろう、という気もする。
 (それにしても)
 僕はふっと先ほどの出来事を思い出していた。初手9七角。歩兵の上に角行を重ねた時のことだ。
 あの時はただ意表を突かれていたから、深く考えなかったが、言われてみれば角と桂は初形では全く動かせないことに気づく。
 (ん?)

 ――かくとけいは動かせない。
 
 ――けいとかくは動かせない。
 
 ――けい、かくは動かせない。
 
 僕の頭に〈跳躍(リープ)〉が舞い降りた。間もなく、部活終了時刻。僕は携帯端末を手に取り、勝田くんに放課後話したいことがある、とメールを送信した。
 
 *****
 
 「わりぃ、待たせたな!」
 高校の近くにあるファミレスのドリンクバーで3種類目の炭酸ジュースであるバナナソーダを飲み始めた頃、勝田くんは現れた。
 部活の後片付けをしていたのだろう。顔やジャージに少し砂ぼこりがついていた。
 「で、どうだった? 解けたのか?」ストレートに聞いてくる。
 自信がないわけではないが、最適解といった類のものなので「まあ、それなりに」とだけ答えておく。
 僕は、もう一回例の図を携帯端末のディスプレーに表示してもらい、それを二人で覗き込むようにして話を始めた。
 「まず、これは将棋の初形で間違いない。だから、最初は『始まっていない』『始めるのは待て』といったメッセージかと思ったんだ。しかし、それだと将棋以外――例えば、オセロやチェスといったゲームの図面でもよくなってしまう」
 「確かにな」
 「次に、各駒の状況について考えてみたんだ。新規開拓の案、つまり、最初の一手に関するものなんじゃないかなとね」
 僕は、画面の角と桂を指差す。
 「実は、全ての駒のうち、桂と角だけが、最初の一手では絶対に動かせないんだ。言葉遊びっぽいけど、つまり『けい、かくは動かせない』、『計画は動かせない』となるわけ」
 「おおっ!? 確かに、ジジイのセンスに合ってそうな気がする! オヤジに早速連絡しよう」
 その反応に、僕は自説が強化された手ごたえを感じた。
 「ちょっと待って。まだ続きがあるんだ」
 携帯の画面を通話モードに切り替えようと手繰り寄せようとする勝田くんを制して続ける。
 「確かに『計画は動かせない』状態ではあるけど、それは条件付きなんだ。例えば、この角の右上の歩をひとつ前に進めるだけで、桂と角はすぐに動かせるようになる」
  つまり、『歩を進めないかぎり計画は進められない』、逆に言えば、『勇気をもって最初の一歩を踏み出しさえすれば計画は進めていける』ということなんじゃないかな」
 僕は、計画を進めるのが正解という解を提示した。相談を受けたときの感じからして、勝田くんは親父さんの案にゴーサインが出ることを望んでいるように見えたから、喜んでくれると思っていたが。
 「うーむ……」
 勝田くんは渋い顔で考え込んでしまった。
 「まだ気がかりなことが?」
 「あ~、つまりはさ、最初の方も理屈的には間違ってないわけだから、どっちも正解になりえると思えるんだよなぁ……。こっちがどっちを選んでも、ジジイが反対の方を正解だって主張しちまうと絶対に正解になれないっていうか……」
 確かに。そうなのだ。その点は、僕も考えていた。しかし、僕の答えは変わらない。
 「そう。この問題の答えは多分、計画を進める進めないどちらでも回答になりうると思う。
  お父さんがどうしても計画を進めたい、自信があると思うなら、計画を進める方の回答、かつ、お爺さんが正解である必要があるはずだよ。
  お爺さんは、どちらを選ぶかでお父さんの計画に対する自信と情熱が計れると思ったんじゃないかな」
 「なるほどなぁ。とりあえず、家に帰ったらオヤジに提言してみるよ」

 気づけば、自室のベッドの上に仰向けに転がっていた。
 色々なことがあって、色々なことを考え続けていためだろうか。帰宅して、晩飯を食べたはずだが、良く覚えていない。
 勝田くんの件もそうだけど、無事に軽音楽部に仮入部できるのかとか、将棋部(変な顧問含む)のこととか、昼間は授業もあるし、あぁ高校生ってなんて大変なんだ。
 そして、
 「みつき、か」
 僕は呟くと、ふと気になって、普段は全く使われずうっすらとホコリをかぶっていた漢和辞典やら国語辞典やらを引っ張り出してページを手繰る。
 桂という植物があることは小学生のときの課題(生い立ちの記、とかいう名前だったか)でうっすら調べたことはあったが、改めて調べてみると『月の中にあるという高い理想』を表しているらしい。
 月の中といっても、月面のことだろうけれど、都合よく変換すれば、美月の中にある高い理想が桂である、ということか……。
 また、月と桂が両方入る『月桂冠』は古代ギリシアで勝利と栄光のシンボルといわれているようだ。
 (二人がそろえば、勝利と栄光のシンボルになるのか……)
 両方とも、単なるこじつけといわれればそれまでだが、何だかとても運命的なものを勝手に感じてしまった。
 とそのとき「おーい、桂夜いるか?」と僕を呼ぶ声が聞こえた。父だ。
 リビングに行くと、父が夕食を食べているところだった。
 「珍しく、帰るの早かったんだね」
 僕は、テーブルの上に転がっている「瀬田海洋(Seta Kaiyou)」と書かれた社員証を見ながら尋ねる。
 父は中小企業でシステムエンジニアとして働いている。日常的に仕事量が多く、トラブルが発生するとあっというまに終電コースで、夜に会えない日も少なくない。
 「あぁ。今年は、配属したばかりの新人に『素敵な日常』を見せないように、との優しい幹部からのお達しがあったからな」
 「はは……そうなんだ」
 なるほど、当たり前のことだけど、4月は新たに社会人一年生になる人たちもいる。僕もあと7年くらいしたら同じ状況になるんだな。
 「今年は優秀な人が入ってきてくれたの?」
 「能力は問題なさそうだが、リテラシーはまだまだ教育が必要だな。パスワードをそのままディスプレイに貼り付けていたからな。それじゃあ、やりたい放題してくださいと言っているようなもんだ」
 僕は少しどきりとする。僕はパスワードの類を一枚の紙にパスワード一覧としてまとめて管理していたからだ。状況は似たようなものだ。
 「じゃあ、お父さんはどうしてるの?」
 「簡単なものなら、〈自分なりのルール〉を心の中に決めておくのが手早いな。数字なら2つ進めるとか、英字なら1つ戻すとか、数字と英字の間にはパーセントを入れるとか。で変換する前の文字をメモしておく。これだけで随分違う」
 「……なるほどね」
 社会人で評価されるには、学校で教わることだけじゃダメそうだなあ。

 

 小説『Spring in the Spring =跳躍の春=』(2/5)に続く

小説『将棋部シリーズ』について

おつかれさまです、総村です。
今日は小説『将棋部シリーズ』についてです。

 

当ブログの開設動機は第1回の記事にある通りなのですが、
それ自体(自曲紹介、コード譜公開)は何とかかたちにすることができました。
逆に言うと、曲紹介というコンテンツについてはある程度満足ができたかなと思っています。

さて、そういう背景もあって、これも第1回の記事にあるのですが、
これからしばらくは「音楽以外の創作物も投稿」していこうかと思っています。
それは、小説です。

 

ことの発端は、ミステリ小説好きな知人がおり、ひとつ驚かせてみようと思ったことでした。

しかし、何本か執筆をしては読んでもらってを繰り返したのですが、反応はいまひとつ……。
最終的ににもらったコメントは「思い切って、ラノベみたいに書いてみたら?」でした。

 

ラノベといえば、まず思い浮かんだのは学園もの。学園ものとして、パッと思い浮かんだのは米澤穂信さんの「古典部シリーズ」でした。では、何の部活にするか…。どうせ書くなら、ニッチな部活かなと思い、別の知人の力が得られそうな「将棋部」にすることにしました。また、学園ものといっても、自身が高校生でなくなってからはずいぶん経っていましたので、プロのように「あたかも高校生の思考や行動を適切にイメージし、」「リアル学生がドキドキわくわく読みたくなる」ものを書きつらねることなどは難しいため(そもそも読ませたい知人は社会人であった)、「大人による大人のためのラノベ(という逃げ口上)」にすることにしました。何より書いている本人が素人なので、まずは最後まで書き遂げられることを目標に、あまり気張らずに書くことにしました。

 

次に、考えたのが音楽とのコラボです。 手塚治虫氏のスターシステムや、伊坂幸太郎氏のシリーズのように、作品と作品の垣根無く時空自在あるいは相乗効果を生み出す世界観がもともと好きでしたので、自分の場合はやや斜め方向に「総村の音楽」と「総村の小説」を結合させると面白いし、音楽の方の新たな切り口にもなりそうだ、として取り入れることにしました。そうすることで、「CREATURES」も「ちいさなもりのおおきなき」もまた違った活躍の場が得られることになり、望外の喜びが生まれたのでした。

  

執筆時に大きな力となったのが、School Food Punishment氏の「in bloom」です。

この小説のイメージにぴったりで、この曲を聴くと、執筆スイッチが入る、という状態でした。残念ながら、グループは解散してしまっておりますが、生み出された歌というのは人格を持ち、運命をも纏います。もし、この小説をお読みいただけるという方は、ぜひとも合わせて聴いて頂ければと思います。(下部に紹介リンクを貼っておきますね)

 

執筆当時(2010~2012年頃)と、現在(2019年)では、数年ですが、内容が陳腐な箇所(例えばガラケーっぽいものはスマフォっぽく)がありましたので、その点はブログ掲載にあたり、少しは手を入れていますが、基本コンセプトや内容は変わっていません。

 

振り返ってみると、物書き経験ゼロの人間にしては、何とかかんとかまとめられたかなと感じます。恐らく、一人きりではどうにもならなかったでしょう。

僭越ながら、このスペースを借りて、執筆の機会をくれた知人桂夜・美月・泉西先生たちには感謝の言葉を述べさせて頂きたいです。

ありがとうございました。

 

■作品リスト

 No.1 (v1.0 2010/11/21) Spring in the Spring =跳躍の春= (1) (2) (3) (4) (5)

 No.2 (v1.0 2011/05/03) Sum a Summer =総計の夏=

 No.3 (v1.0 2011/07/22) All gets star on August =星の八月=

 No.4 (v1.0 2012/01/10) Fall on Fall =俯瞰の秋=

 No.5 (v0.0 yyyy/mm/dd) Winner in Winter =勝利の冬=

 

 

in bloom

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  • provided courtesy of iTunes

 
以上、今後ともよろしくお願いします。

歌『White Snow X'mas』の歌詞・コード譜

おつかれさまです、総村です。
今日は歌『White Snow X'mas』の歌詞・コード譜についてです。

 

具体名を挙げることは差し控えますが、コード譜をネット上に紹介して頂いているWebサイト様がいくつかあるのですが、自動生成しているのか(?)、実際と異なった内容となってしまっているものが散見されました。そこで、ブログの当初作成動機でもあるコード譜をアップロードさせて頂くことにしました。

 

■歌詞

些細なことで喧嘩して
眠れない夜 繰り返し
気が付けば 今はもう
クリスマス・イヴの夜

雪が 静かに 降りはじめ
もやもやした気持ちのまま
待ち合わせのツリーの前
恐る 恐る 近づいた

肩に2cmの雪を 積もらせ 立ち続ける
あなたの後ろ姿で もう全部許してあげる!

小さな 真っ白い 羽根を舞い上げて
二人で 街に くりだそう
一年に 一度の 特別な夜
あなたと Happy marry X'mas

きれいに飾られたツリーを
ため息ついて見上げたり
虹色の歌声も
聞こえないふりしてたけれど…

幸せが満ち溢れて 廻り巡ってくるように
見知らぬカップル達でも心から祝ってあげる!

小さな 真っ白い 雪が舞い下りて
街を飾りつけはじめる
一年に一度の特別な夜
私に Happy marry X'mas

 

■歌詞(コード付き) ※歌詞の上にコードを併記しています

G    B7    Em    A7    CM7    Dsus4  D

(前奏)

G         B7      Em

些細なことで喧嘩して

    Am7            Dsus4    D
眠れない夜 繰り返  し

    B7            Em

気が付けば 今はもう

        Am7    A7         Dsus4  D
クリスマス・イヴの夜

G       B7      Em

雪が 静かに 降りはじめ

        Am7              Dsus4    D

もやもやした気持ちのま ま

    B7                 Em

待ち合わせのツリーの前

    Am7     A7         Dsus4    D
恐る  恐る 近づい  た

C  D9   Bm7  Em          Am7  D7           G    G7

肩に2cmの雪を  積もら せ 立ち続ける

C         D9      Bm7  Caug     CM7   C#m7♭5      Dsus4    D
あなたの後ろ姿   で  もう全部許し   てあげ る!

C             G/B           Am7           Dsus4    D

小さな 真っ白い 羽根を舞い上げ  て

C          G/B         Am7   D  G
二人で 街に  くりだ そう

C         G/B        Am7   Dsus4    D
一年に一度の 特別 な   夜

C             G/B               Am7   D  G
あなたと Happy marry X'   mas

C    D    D#dim    Em          Am7    D    D#dim    Em

C    D    Bm7    Em          C    C#dim    Dsus4    D  

(間奏)

G            B7      Em

きれいに飾られたツリーを

        Am7           Dsus4    D
ため息ついて見上げた り

  B7      Em

虹色の歌声も

        Am7    A7             Dsus4    D

聞こえな いふりしてたけれ ど…

C  D9             Bm7    Em         Am7    D7             G       G7

幸  せが満ち溢れて  廻り  巡ってくるよう に

C         D9             Bm7     Caug     CM7   C#m7♭5       Dsus4    D
見知らぬカップル達   でも  心か ら祝っ   てあげ る!

C         G/B          Am7          Dsus4     D

小さな 真っ白い 雪が舞い 下り  て

C          G/B           Am7   D     G
街を 飾りつけ はじ め る

C         G/B        Am7   Dsus4    D

一年に一度の 特別 な   夜

C           G/B               Am7   D  G

私に Happy marry X'   mas

 

 ■作詞日
2010/11/28

 

■歌詞(English ver.)

(It does not exist yet.)

 

(曲紹介やその他リンクは、過去の概要紹介ページをご参照お願いします。)

 

以上、今後ともよろしくお願いします。